学問を持つことが大切だと悟った寅次郎が、
家庭教師役を買って出てくれた“とらや”の下宿人の大学助手に恋心を抱く。
シリーズ第16作。

男はつらいよ
葛飾立志篇

1975  日本

97分  カラー



<<解説>>

撃ち合いのカット割りに凝った西部劇風の夢からはじまる16作は、初心に返ったような寅次郎の浅はかさが楽しめる作品。これまで、他人の言葉に触発されて、「勤労に励むこと」、「家庭を持つこと」など、幾度となく人生の課題に挑戦してきた寅次郎だが、今回、彼が挑むのは「教養を身につけること」。しかし、「学問するからには、まずメガネをかけなければ」と、形から入ろうとするところは、初期の愚かな寅次郎を思わせる。キャラクターが後退したというと、悪い意味になってしまうが、言い換えれば、過去の作品の良いとこ取りをしたようなベスト盤的な作品である。
本作では、“とらや”が久しぶりに女性を二階に下宿させる。そして、大ヒットした第12作『私の寅さん』の再現か、樫山文枝扮するマドンナはインテリという設定になっている。第12作では、マドンナとは出会ったとたんに喧嘩になってしまったが、今回のマドンナはインテリを鼻にかけない素直な性格であるため、現金な寅次郎はすぐにコロリとなってしまう。この寅次郎の態度の違いは、第12作と比較して楽しみたいところだ。
寅次郎と変人との対決は、ここ数作の見どころの一つである。今回、登場する変人は小林桂樹扮する博士。博士が寅次郎を「恋の師」として尊敬し、テキ屋と学者という相容れなさそうな人種の二人の交流が愉快に描かれていく。故郷では鼻つまみ者の寅次郎が、大人物に惚れられるという価値観の逆転が実に痛快で、このモチーフはシリーズ中で幾度となく使われることに。博士が寅次郎の関係は、第10作と第14作と同様で、恋のアドバイスをしていたつもりが……という切なく哀しい展開が楽しめる。前述の浅はかさから、「恋の師匠」になりきれない寅次郎だが、第20作からは指南役が多くなっていく。
最後に、アイドルの桜田淳子がゲスト出演しているところに注目したい。この頃から、銀幕のスターだけでなく、テレビの人気者を積極的に出演させるようになっていくが、それは「男はつらいよ」が国民的シリーズとなった証だろう。



<<ストーリー>>

“とらや”にはるばる山形から順子という女子高生が寅次郎に会いにやって来た。毎年、寅次郎が正月に学費として五百円を送ってくるという順子の話に、“とらや”の一同は寅次郎の娘ではないかと大騒ぎ。たが、ちょうど帰ってきた寅次郎の説明によれば、順子の母親であるお雪には惚れてはいたが、指一本触れていないのだという。誤解が解けた寅次郎だったが、その夜、自分に子供がないということで竜造と喧嘩になり、“とらや”を飛び出したのだった。
山形に向かい、昨年、亡くなったというお雪の墓参りをしていた寅次郎は、その寺の住職と会った。住職から、学がなかったために悪い男に騙されたお雪の不幸を知らされた寅次郎は、己を知るために学問をすることを決意。ちょうどその頃、“とらや”の二階には、御前様の親戚で大学の考古学の助手・筧礼子が下宿していた。柴又に取って返した寅次郎は早速、勉強をはじめようとするが、形ばかりで近所に恥をさらすだけ。見かねた博が寅次郎に勉強を教えようとするが、ちょうど話を聞いていた礼子が家庭教師を買って出てくれることになった。
そんなある日、“とらや”の店先に、薄汚れた格好をした初老の男が現れた。男のなりを見た寅次郎は、身寄りのない可愛そうな老人だと早合点するが、そこへ礼子が下りてきて説明。男は礼子の恩師である田所博士であったことが判明した。田所は考古学の権威で博学ではあるが、ちょっと変ったところがあり、すぐに寅次郎と打ち解けた。色恋関係には疎く、独り者の田所は、恋について熱く語る寅次郎のことを、その道の師と呼んだ……。



<<キャスト>>

[車寅次郎]
渥美清

[さくら]
倍賞千恵子

[竜造]
下條正巳

[つね]
三崎千恵子

[博]
前田吟

[社長]
太宰久雄

[源公]
佐藤蛾次郎

[満男]
中村はやと

[旦那]
吉田義夫

笠井一彦
羽生明彦
木村賢治
長谷川英敏
坂大勝也
谷 よしの
後藤泰子
戸川美子
統一劇場

[轟巡査]
米倉斉加年

[住職]
大滝秀治

[御前様]
笠智衆

[順子]
桜田淳子

[礼子]
樫山文枝

[田所先生]
小林桂樹



<<スタッフ>>

[製作]
島津清
名島徹

[企画]
高島幸夫
小林俊一

[脚本]
山田洋次
朝間義隆

[撮影]
高羽哲夫

[美術]
出川三男
佐藤公信

[音楽]
山本直純

[録音]
中村寛

[調音]
松本隆司

[照明]
青木好文

[編集]
石井巖

[スチール]
長谷川宗平

[監督助手]
五十嵐敬司

[装置]
小野里良

[装飾]
町田武

[衣裳]
松竹衣裳

[現像]
東京現像所

[進行]
玉生久宗

[製作主任]
内藤誠

[主題歌]
「男はつらいよ」
星野哲郎 ・作詞
山本直純 ・作曲
渥美清 ・唄
(クラウン・レコード)

[協力]
ブルドックソース株式会社
柴又神明会

[原作/監督]
山田洋次



<<プロダクション>>

[製作]
松竹