寅次郎は同級生の妹である画家と出会うが、初対面で大喧嘩。
喧嘩からはじまる片思いを描くシリーズ第12作。

男はつらいよ
私の寅さん

1973  日本

107分  カラー



<<解説>>

寅次郎がピストル構えたヒーローに扮する夢からはじまるシリーズ第12作は、第10作『寅次郎夢枕』以上にありえない展開の連続が楽しめる快作である。前作を上回る観客動員数で、シリーズで最大のヒット作となった。
本作は「パターン崩し」というものを意識的に行なったはじめての作品のようで、はじめから終りまで観客を翻弄していく。まず、面白いのは、寅次郎が旅に出ず、代わりに“とらや”の面々が旅に出るというエピソード。普段と立場が入れ替ることで、寅次郎が家族の帰りを心配しながら待つことになるのである。寅次郎が旅先から戻ったさくらたちを、彼なりの理想の態度で迎える場面は、とても心暖まる。
岸恵子演じるマドンナは前作のリリーと対極に位置するが、他のマドンナに類を見ない才色兼備は魅力的だ。マドンナとの出会いが大喧嘩という、典型的なラブコメのシチュエーションであるのが楽く、また、画商に扮する津川雅彦の登場シーンも、定着したパターンを逆手に取った遊び心のある展開を見せる。
ちなみに『私の寅さん』という副題は、ラストでりつ子が“とらや”に宛てた手紙の中の文句から。



<<ストーリー>>

寅次郎が柴又に帰ってみると、“とらや”の面々はいつになくソワソワしていた。実は、明日、皆が九州へ旅行に出発すると知った寅次郎は、ひがみながらも留守番を引き受けることに。
留守番中、寅次郎は、さくらたちのことを心配し、また、自分の寂しさを紛らわせるため、毎晩、宿泊先の旅館に電話をかけた。ところが、案の定、旅先の竜造と電話越しで大喧嘩することに。勢いあまって“とらや”を出て行こうとした寅次郎だったが、振り返ると茶の間には社長が一人だけ。いつもなら止めてくれるさくらがいないことに気付き、うなだれる寅次郎だった。
反省した寅次郎は、さくらたちが帰って来る日、長旅で疲れた皆を気持ちよく迎えてやろうと、テキパキと食事や風呂の準備をした。さくらたちは、「寅次郎がやっと気が付いてくれたのだ」と喜んだのだった。
ある日、さくらが怪しい男に後をつけられた。寅次郎がとっ捕まえると、それは彼の同級生で、医者の家のおぼっちゃんだった柳だった。彼は甘やかされて育ったせいか、未だにまともな職についていなかった。すっかり、打ち解けた寅次郎は、柳に彼の妹の家に招かれた。柳の妹のりつ子は絵描きで、その時ちょうど留守だった。寅次郎は、柳としゃべっている最中、筆にいたずらしてキャンバスを汚してしまった。そこへ帰宅したりつ子は、汚されたキャンバスを見て激怒。気が動転したりつ子は、寅次郎を怒鳴りつけて家から追い出してしまうのだった。
翌日、寅次郎は昨日のりつ子の態度が気に入らず、まだ怒りつづけていた。そこへりつ子が“とらや”に訪ねてきた。思わず身構える寅次郎だったが、昨日の失礼を詫びたりつ子の素直さを見直し、一変、彼女に惚れてしまうのだった。
また別の日、“とらや”に身なりの良い男、一条が現れ、りつ子が来るのを待っていた。「今回はやけに早くフラれたもんだ」と囁く“とらや”の面々。例によって、こんなときに限って寅次郎は帰ってきた。男とりつ子が深刻な話をしているのを見た寅次郎はガックリ。すぐに旅の準備をすると、“とらや”の面々に別れを告げた。ところが……。



<<キャスト>>

[車寅次郎]
渥美清

[さくら]
倍賞千恵子

[博]
前田吟

[つね]
三崎千恵子

[源公]
佐藤蛾次郎

[社長]
太宰久雄

[買占め商人]
吉田義夫

[画伯]
河原崎国太郎 (五代目)

[夫人]
葦原邦子

中村はやと
加島潤
土紀養児
高木信夫
羽生昭彦
木村賢治
長谷川英敏
村上猛
大原みどり

[龍造]
松村達雄

[御前様]
笠智衆

[一条]
津川雅彦

[柳文彦]
前田武彦

[柳りつ子]
岸恵子



<<スタッフ>>

[製作]
島津清

[企画]
高島幸夫
小林俊一

[脚本]
山田洋次
朝間義隆

[撮影]
高羽哲夫

[美術]
佐藤公信

[音楽]
山本直純

[録音]
中村寛

[調音]
松本隆司

[照明]
青木好文

[編集]
石井巖

[監督助手]
五十嵐敬司

[装置]
小野里良

[装飾]
町田武

[進行]
福山正幸

[衣裳]
松竹衣裳

[現像]
東京現像所

[製作主任]
池田義徳

[主題歌]
「男はつらいよ」
星野哲郎 ・作詞
山本直純 ・作曲
渥美清 ・唄
(クラウン・レコード)

[協力]
柴又神明会

[原作/監督]
山田洋次



<<プロダクション>>

[製作]
松竹