アル中の治療を終えた時、自らの人生の行く末を悟った青年が選んだ道とは?
自殺志願の青年の二日間を描くヌーヴェル・ヴァーグの巨匠ルイ・マルの代表作。

鬼火

LE FEU FOLLET

1963  イタリア/フランス

108分  カラー



<<解説>>

「生きていればそのうちいいことがあるさ」というのは、他人の自殺を踏みとどませるときに使う常套句であるが、しかし、なんて無責任な言葉だろうか。人の幸福ほど、絶対的な価値基準で計れないものはない。「美味しいものを食べる」ということにささやかな幸せを見出せる人もいれば、大金や権力などの絶大なパワーに幸せ求める人もいる。往々にして、幸福の希求の大きさは、その人の人生に対する期待や情熱に比例しているようである。そして、人生の基盤となる幸福観を変えることは、そう簡単にできるものではない。
ふらりと友人たちの前に姿を見せた主人公アラン。情熱を秘めながらも、何もやることが出来ず、ただそこに存在するだけの彼は、まるで鬼火のよう。何かをはじめるにしても、現実問題として、失われた時間は残酷なほどに大きいのである。それぞれの人生を歩んでいる友人たちも昔とは違い、アランの孤独感はより強まっていく。情熱が余りありすぎた故の人生への絶望。その帰結としての死という選択は切実であり、自己愛の表現としてリストカットするのとはワケが違うのである。
本作は、人が気がつかない努力、あるいは、気がつかないフリをしている人生の意味についての問題を、気だるい空気の中に描き出した描いた究極の人間ドラマである。サティの「ジムノペディ」は、まさに「ゆっくりと悩める如くに」描かれた本編の気分を表したような絶妙な選曲だ。本作の影響で当時、サティがブームになったが、同時に、ラストシーンの“アレ”も流行したとも伝えられている。



<<ストーリー>>

アルコール中毒の治療のために入院していたアランは、もう既に快復していた。だが、妻が見舞いに来ても、そのまま病院にくすぶり続けていた。医師から青春を取り戻すようすすめられたアランだったが、その気もなく、自殺を覚悟して病院を出た。
パリにやってきたアランは、かつての友人たちを訪ねた。だが、家庭を持ち考え方も現実的になっていた親友は、アランの言動を指して逃避だと言った。そして、麻薬におぼれる芸術家の友人エヴァたちは、アランを人生の敗者だと呼んだ……。



<<キャスト>>

[アラン]
モーリス・ロネ

[ダヴェルソー]
ユベール・デシャン

[ドュブール]
ベルナール・ノエル

[エヴァ]
ジャンヌ・モロー

[シリル・ラヴォード]
ジャック・セリース

[ソランジュ]
アレクサンドラ・スチュワルト

[マリア]
クロード・デシャン

[フレデリック]
アンリ・セール



<<スタッフ>>

[監督/脚本]
ルイ・マル

[製作担当]
アラン・ケフェレアン

[原作小説]
ピエール・ドリュ・ラ・ロシェル 「ゆらめく炎」

[撮影]
ギスラン・クロケ

[音楽]
エリック・サティ

[美術]
ベルナール・エヴァン

[助監督]
フォルカー・シュレーンドルフ

[録音]
ジャン・ネニー

[記録]
エリザベス・ラペノー