旅先で出会った三人の女性旅行者と意気投合する寅次郎。
やがて、娘の一人に恋をしてしまう。
シリーズ第9作。
男はつらいよ
柴又慕情
1972
日本
108分
カラー
<<解説>>
日本映画界のアイドル、吉永小百合がマドンナとして迎えた本作は、前作でシリーズのテーマを明確にしたことで吹っ切れたのか、良い具合に肩の力が抜けたような印象を受ける作品である。吉永の出演は山田監督の念願でもあったとかで、脚本もマドンナが登場してからは彼女を中心とした内容に仕上がっている。マドンナと“とらや”の面々との絡みは少ないものの、マドンナの心の機微を描いているところに注目したい。シリーズの中期から後期は、マドンナが人生を持つ一人の女性として描かれるようになるが、その走りと言えよう。吉永演じる歌子は第13作で再登場する。
寅次郎の成長も印象に残る作品だ。寅次郎が聞き分けのないことを言って家族を困らせるのは毎度のことだが、それだけで終わらないのだ。いつもと立場を逆転させ、寅次郎が家族の喧嘩を止めたり、一段高いところに座り、家族に向かって説教する場面があったりする。また、これまでの恋の結末は、寅次郎がマドンナから逃げてしまうという場合がほとんどだったが、今回は逃亡という形をとっていない。
シリーズの流れの中での劇的な変化として、おいちゃん役が交代になった。森川信から引き継いだ松村達雄は、第6作『純情篇』で顔見せしているせいか、なかなか“とらや”にも馴染んでいるようだ。森川版とは違い、寅と対等の関係で張り合うおいちゃんを、以降第13作まで演じる。また、もう一つの変化としては、本作からシリーズの枕の定番となる夢のシーンが冒頭につくようになった。今回の夢は股旅ものの時代劇をパロったもの。おいちゃん役の交代と冒頭の夢という見た目にも分かりやすい変化は、前作で一区切りつけて新たなスタートを切ったことを、計らずも印象付けることに。
寅次郎の舎弟・登(津坂匡章)が第5作『望郷篇』以来、久しぶりに登場する。
<<ストーリー>>
寅次郎が柴又に帰ってくると、“とらや”の二階の自分の部屋が貸間にされていた。自分の家ぐらい自分で探してやる、と息巻いた寅次郎は不動産屋に相談。何軒か回り、ようやく注文通りの部屋が見つかるが、不動産屋に連れて行かれた家はなんと“とらや”だった。このことがもとで竜造や博と喧嘩し、寅次郎は家を飛び出したのだった。
福井を旅する三人の娘の姿があった。みどり、マリ、歌子は気の合う友だち同士で、こうして三人そろって旅をするのが趣味なのである。ところが、歌子だけは浮かない顔をしていた。みどりがもうじき結婚してしまうため、つまらないのだ。そんな時、歌子たちは旅先で寅次郎と出会い、意気投合。おかけで楽しい旅行になった、と喜ぶ歌子たちであった。
ふらりと柴又に帰ってきた寅次郎は、彼を訪ねてきたみどりとマリと帝釈天で再会した。みどりとマリは、寅次郎が二十年振りに帰郷してきたと信じ、彼を“とらや”へ案内。結局、店でそれが寅次郎の冗談と分かり、みどりとマリは大笑いするのだった。みどりとマリの話では、歌子はまだ寅次郎の身の上話を信じきって、そのことを気にしているのだという。歌子の様子に寅次郎はまんざらでもなかった。
うわさの歌子が一人で“とらや”を訪ねてきた。彼女を見た“とらや”の面々は「良い娘さんだ」と感心。寅次郎が気に入るも納得なのである。実は歌子には結婚したい青年がいた。だが、歌子は、一人では何もできない父親・修吉が心配で結婚に踏み切れないのだ。そんな事情があるとも知らない寅次郎は、歌子に良い婿がいないかと思案。もちろん相手は自分しかありえない、と一人合点し、ニヤニヤするのだった……。
<<キャスト>>
[車寅次郎]
渥美清
[さくら]
倍賞千恵子
[おいちゃん]
松村達雄
[おばちゃん]
三崎千恵子
[博]
前田吟
津坂匡章
(秋野太作)
太宰久雄
佐藤蛾次郎
新村礼子
高橋基子
泉洋子
沖田康裕
中田昇
北竜介
大杉侃二朗
戸川美子
後藤泰子
谷よしの
吉田義夫
桂伸治
青空一夜
佐山俊二
[修吉]
宮口精二
(東宝)
[御前様]
笠智衆
[歌子]
吉永小百合
<<スタッフ>>
[製作]
島津清
[企画]
高島幸夫
小林俊一
[脚本]
山田洋次
朝間義隆
[撮影]
高羽哲夫
[美術]
佐藤公信
[音楽]
山本直純
[録音]
中村寛
[調音]
松本隆司
[照明]
青木好文
[編集]
石井巖
[監督助手]
五十嵐敬司
[装置]
小野里良
[装飾]
町田武
[進行]
玉生久宗
[衣裳]
東京衣裳
[現像]
東京現像所
[製作主任]
池田義徳
[主題歌]
「男はつらいよ」
星野哲郎
・作詞
山本直純
・作曲
渥美清
・唄
(クラウン・レコード)
[協力]
京成電鉄
福井新聞社
京福電鉄
洛趣織
・きもの
ペプシコーラ
柴又神明会
[原作/監督]
山田洋次
<<プロダクション>>
[製作]
松竹