“とらや”の二階に部屋を借りたのは夫と別れた遠縁の女性。
そして、例のごとくその女性ほれてしまう寅次郎。
シリーズ第6作。

男はつらいよ
純情篇

1971  日本

90分  カラー



<<解説>>

“とらや”の二階に下宿人を住まわすというは、シリーズ定番のシチュエーションである。下宿人の美人に寅次郎が恋をするというネタは、第4作『新 男はつらいよ』で使ったばかりだが、マドンナとして人妻が登場するはじめての作品というところに注目したい。
まず、冒頭の五島列島のエピソードだが、ここでは、寅次郎は宿代を貸した人妻(宮本信子)に礼として体を差し出されそうになる。この時、激烈な言葉を発して断わる寅次郎の態度は格好がいい。しかし、柴又に帰った途端、五島の人妻と境遇がさほど変わらない人妻に恋をしてしまうところは、さすが、コメディとしての期待を裏切らない。また、マドンナが人妻ならではの気配りを見せることにより、寅次郎の恋がこれまでにない形で終わりを告げるという展開には、息を呑まされる。
五島列島と“とらや”での人妻に扱いの違いもそうたが、博の独立騒動においても、寅次郎のいい加減で無責任な言動が目立っている。寅次郎のいい加減さで言えば、第3作『フーテンの寅』を以来の作品だ。また、本編を暗示させる冒頭の挿話に始まり、“とらや”で持ち上がる騒動、そして、寅次郎のマドンナの片思い顛末の三つがよどみなく、かつ、バランス良く描かれているところも良い。内容も初期の集大成的といった趣きなので、「男はつらいよ」への入門として、もってこいの一作かもれない。
作品の内容とは無関係だが、本作はタイトルクレジットが特徴的。通常は、地方や柴又界隈を散策する寅次郎の姿を旅情豊かに見せていくのだが、なぜか本作だけは江戸川の空撮で、寅次郎も登場していない。



<<ストーリー>>

“とらや”の主人・竜造は、店の二階の部屋を遠縁の明石夕子に貸すことにした。彼女は夫と別居中という訳ありの女性。ところが、こんなときに限って寅次郎が帰ってくる。そして、竜造たち“とらや”の面々が心配していた通り、寅次郎は夕子に一目ぼれしてしまうのだった。それからしばらくして、夕子は体調を崩して寝込んでしまった。寅次郎はあわてて医者を呼び付けるが、やってきた山下医師がヤブだったため、そうとうに苛立つのだった。
ある日、“とらや”に裏の印刷所の社長・梅太郎が血相を変えて飛び込んできた。博が独立するために工場を辞めると言い出したのだという。梅太郎に頼まれ、博と話をつけに行った寅次郎だったが、逆に工場を辞める必要性を力説されて彼に共感。今度は博に頼まれ、梅太郎と話をつけに向かうが、彼の家の貧しさに同情。寅次郎のあいまいな返事に、梅太郎と博はすっかり話がついたと思い込み、“とらや”で仲直りの宴会を催すことに。ところが、宴たけなわにさしかかったところで、問題がまったく解決していないことにが発覚した。宴の席は騒然となった……。



<<キャスト>>

[車寅次郎]
渥美清

[明石夕子]
若尾文子 (大映)

[さくら]
倍賞千恵子

[博]
前田吟

[おばちゃん]
三崎千恵子

[梅太郎]
太宰久雄

[源公]
佐藤蛾次郎

北竜介
大杉侃二朗
大塚君代
城戸卓
水木凉子(水木涼子)
谷よしの
山本幸栄
竹田昭二
みずの皓作
市山達己
長谷川英敏
源勇介
松原直
高木信夫

[絹代]
宮本信子

[夕子の夫]
垂水悟郎

[山下医師]
松村達雄

[おじちゃん]
森川信

[御前さま]
笠智衆

[千造]
森繁久彌



<<スタッフ>>

[製作]
小角恒雄

[企画]
高島幸夫
小林俊一

[脚本]
山田洋次
宮崎晃

[撮影]
高羽哲夫

[美術]
佐藤公信

[音楽]
山本直純

[録音]
中村寛

[調音]
小尾幸魚

[照明]
内田喜夫

[編集]
石井巖

[監督助手]
大嶺俊順

[装置]
若林六郎

[装飾]
町田武

[進行]
柴田忠

[衣裳]
東京衣裳

[現像]
東京現像所

[製作主任]
池田義徳

[主題歌]
「男はつらいよ」
星野哲郎 ・作詞
山本直純 ・作曲
渥美清 ・唄
(クラウンレコード)

[協力]
柴又神明会
五島観光連盟
福江市
玉之浦町

[原作/監督]
山田洋次



<<プロダクション>>

[製作]
松竹