世話になった親分の不幸な死を見届け、人間汗水たらして働かなければならないと痛感した寅次郎。
一大決心し浦安の豆腐屋で働き始めるが、彼の目当ては店の娘だった。
シリーズ第5作。

男はつらいよ
望郷篇

1970  日本

88分  カラー



<<解説>>

この年は「男はつらいよ」が三作品も公開され、その三本すべてが別の監督で撮られたが、最後の一本は原作の山田監督が担当。以降、最終作まで監督は代わらない。
寅次郎が柴又に帰ってみると、おいちゃんが病気で亡くなっいた…という夢のシーンから始まる。冒頭の夢は第二作『続 男はつらいよ』ではじめて登場し、本作と同様に本編のストーリーを暗示する内容だった。しかし、第9作『柴又慕情』からは本編と無関係のパロディ的な内容になっていき、このシリーズの余興の一つとなっていく。
冒頭の夢から繰り返される死のイメージと荒涼とした北海道の風景は、爆笑コメディ路線だった前作ニ作と較べると暗い印象を受ける。しかし、路線変更というより、山田監督の手に戻ったところで路線復帰したといったほうがいいようだ。仕切りなおしと言わんばかりに、前半でやくざ家業を否定。シリーズを根底から覆すうよな衝撃的な展開だが、いったん価値観を捨てたとこから、今一度人生のテーマを見出そうとする過程は感動的。ここに、前作までは単なる厄介物であった寅次郎が、人生に迷走する一人の人間の片鱗を見せたようでもある。笑いに関しても、ただ寅次郎の失敗をあげつらうのではなく、働こうとしても上手くいかないというもどかしさをペーソスを含んだ笑いに転換している。ドラマとコメディの両面で観れば観るほど味わい深く、最初期の作品の中では、『続 男はつらいよ』と双璧をなす良作となった。



<<ストーリー>>

寅次郎が柴又に帰っていた時、北海道で昔世話になった竜岡親分が危篤だという報せが届いた。すぐに車寅次郎は、さくらから金をもらい、舎弟の登と一緒に柴又を出発した。病院で再会した親分はすっかり弱っていて、死ぬ前に愛人に産ませた息子・澄雄に会いたいと言った。寅次郎は親分の願いをかなえるため、鉄道機関士をしていた澄雄を訪ねた。だ、澄雄は、母親に構わず女遊びをしていた父親を憎んでいて、かたくなに親分と会おうとしなかった。
竜岡親分は澄雄と会うことが叶わぬまま、まもなく息を引き取ってしまった。悲観にくれる寅次郎と登。やくざな遊び人として親分のような不幸な死を遂げるより、澄雄のように汗水たらして真面目に働く方がいくらか良いだろう――そう考えた寅次郎は、いきなり登を怒鳴りつけると、彼をやくざな家業から足を洗わせめため、故郷へ追い返したのだった。
柴又に戻ってきた寅次郎は、北海道で得た教訓を“とらや”の一堂に伝え、堅気の職業に就くことを宣言した。ところが、どんな仕事を試そうと、身についたフーテン暮らしが抜けず、上手く行かない……。



<<キャスト>>

[車寅次郎]
渥美清

[さくら]
倍賞千恵子

[節子]
長山藍子

[剛]
井川比佐志

[博]
前田吟

[登]
津坂匡章 (秋野太作)

[澄雄]
松山省二

三崎千恵子
太宰久雄
杉山とく子
佐藤蛾次郎
木田三千雄
谷村昌彦
大塚君代
谷よしの
光映子
山田百合子
高木孔美子
二宮順一
山本幸栄
石井愃一
大杉侃二朗
市山達己
尾和義三郎
高木信夫
高杉和宏
樫明男
みずの皓作

[御前さま]
笠智衆

[おじちゃん]
森川信



<<スタッフ>>

[製作]
小角恒雄

[企画]
高島幸夫
小林俊一

[脚本]
山田洋次
宮崎晃

[撮影]
高羽哲夫

[美術]
佐藤公信

[音楽]
山本直純

[装置]
小島勝男

[調音]
松本隆司

[照明]
青木好文

[編集]
石井巖

[監督助手]
宮崎晃

[録音]
小尾幸魚

[装飾]
町田武

[進行]
福山正幸

[衣裳]
東京衣裳

[現像]
東京現像所

[製作主任]
峰順一

[主題歌]
「男はつらいよ」
星野哲郎 ・作詞
山本直純 ・作曲
渥美清 ・唄
(クラウンレコード)

[協力]
柴又・神明会

[原作/監督]
山田洋次



<<プロダクション>>

[製作]
松竹