“フーテンの寅”こと車寅次郎が二十年振りに故郷柴又に帰ってきた。
「男はつらいよ」シリーズの記念すべき第一作目。

男はつらいよ

1969  日本

91分  カラー



<<解説>>

山田洋次が脚本として参加した同名のテレビシリーズの映画版。テレビシリーズでは、主人公の寅次郎の死亡という結末で終了したが、ファンのラブコールに応えて映画化された。物語はテレビシリーズの続きではなく、設定も大幅に変更され、寅次郎のキャラクターと兄と妹のドラマという以外はほとんど別物となっている。
当初、映画版は一本しか作る予定がなかったため、妹さくらの結婚など、一作目にして描くべきことはすべて描いてしまい、上映時間が短いながらも密度が高いドラマとなっている。しかし、公開されるや大ヒットを記録し、立て続けに続編が作られることとなった。その後も正月・夏休みの定番邦画となり、ついにはギネスブッグにまで載る世界最長シリーズとなったことは、説明するまでもない。
結果論になってしまうが、第一作にして既にシリーズのパターンが確立していることには驚かされる――寅次郎が柴又に帰ってきて、女性に恋をし、失恋して再び旅に出る――ワンパターンともからかわれたこともあったが、この世界観をまったく崩すことなく最後までやり遂げたことが、このシリーズの成功の理由かもしれない。「男はつらいよ」の面白さは、寅次郎のキャラクターや彼の失恋ドラマにあることはもちろんである。しかし、最大の醍醐味は、48作ある作品を繰り返し見ていく度に「男はつらいよ」の世界が無限に広がっていく楽しさである。決して一作のみ完結する物語でなく、世界そのものを描いたシリーズだからこそ、マンネリと言われつつも愛された所以ではないだろうか。
ちなみに、主人公“車寅次郎”の名は、喜劇映画の巨匠・斎藤寅次郎からとられたという説もあるが、真偽のほどは定かではない。



<<ストーリー>>

“フーテンの寅”と呼ばれる渡世人・車寅次郎が、些細なことで家を飛び出して以来、二十年振りに東京柴又に帰郷した。帝釈天では折りしも祭の最中。寅次郎の叔母は御前様にあいさつをしている寅次郎を見つけ、びっくり。寅次郎は叔父の竜造の営むだんご屋“とらや”で世話になることになった。夜になり、寅次郎の腹違いの妹さくらとが“とらや”に帰宅しきた。さくらは、生き別れに等しい兄の顔をようやく思い出し、涙の再会を果たしたのだった。
両親亡き後、たった一人の兄として妹になんでもしてやるべきだ、と寅次郎。翌日、寅次郎は二日酔いで倒れた竜造の代わりに、さくらの見合いに付き添うことになった。さくらの玉の輿がかかった大事な縁談だったが、寅次郎は羽目をはずして酔っ払い、席をぶち壊しに。結局、見合いは破談となり、“とらや”の皆に責められた寅次郎は、自分なりに反省をし、家を飛び出したのだった。
奈良を旅していた寅次郎は、寺めぐりをしていた御前様とばったり出くわした。御前様の傍らには寅次郎とは幼馴染みの娘・冬子の姿が。すっかり美人になった冬子に惚れた寅次郎は、御前様について柴又へ引き返すことに。一方、柴又では、“とらや”の裏の印刷所で働く青年・博が、さくらへの募る恋心に悩んでいた。
冬子と連れ添い、機嫌よく柴又に帰ってきた寅次郎は、さくらの結婚の話になると、大学出でなければ相手にならない、と、学歴の低い印刷所の職工を嘲笑った。その悪口を耳にた博は我慢がならなくり、“とらや”に乗り込んで寅次郎と喧嘩に。だが、喧嘩をきっかけに寅次郎は博のさくらへの真っ直ぐな想いを知ることとなった……。



<<キャスト>>

[車寅次郎]
渥美清

[さくら]
倍賞千恵子

[冬子]
光本幸子 (新派)

[御前様]
笠智衆

[諏訪〓一郎]
志村喬 (特出)

[竜造]
森川信

前田吟
津坂匡章 (秋野太作)
佐藤蛾次郎
関敬六
三崎千恵子
太宰久雄
近江俊輔
広川太一郎
石島戻太郎
志賀真津子
津路清子
村上記代
石井愃一
市山達巳
北竜介
川島照満
水野皓作 (みずの皓作)
高木信夫
大久保敏男
水木涼子
米本善子
大塚君代
谷よしの
後藤泰子
秩父晴子
佐藤和子



<<スタッフ>>

[製作]
上村力

[企画]
高島幸夫
小林俊一

[脚本]
山田洋次
森崎東

[撮影]
高羽哲夫

[美術]
梅田千代夫

[音楽]
山本直純

[照明]
内田喜夫

[編集]
石井巌

[録音]
小尾幸魚

[調音]
松本隆司

[監督助手]
大嶺俊順

[装置]
大野里良

[進行]
池田義徳

[製作主任]
峰順一

[現像]
東京現像所

[協力]
柴又帝釈天読踊会 川甚
東京きものセンター

[原作/監督]
山田洋次



<<プロダクション>>

[製作]
松竹