元探偵の小説家ハメットが捜索を依頼された中国娘をめぐる陰謀に巻き込まれる。
実在の作家を主人公にした架空のミステリー。
ハメット
Hammett
1982
アメリカ
97分
カラー
<<解説>>
物語の主人公ハメットは、『マルタの鷹』、『血の収穫』などで知られ、探偵小説に現実性を与えた探偵小説の作家である。過去に、ハメットに絡んだ事実を基にした映画に『ジュリア』という作品があったが、本作はの物語は創作である。しかしながら、過去にピンカートン探偵社に務めていたり、1920年代に作家としての活動を始めていたりといった、本人に関するデティールは事実であり、彼が関わる事件しても、もしかしたら起きたかもしれないという範囲のリアリティで描かれている。
監督は『パリ、テキサス』、『ベルリン・天使の詩』など、映画通に好まれているヴェンダース。しかし、彼の代表作のようなアーティスティックな作品を期待してはいけない。製作総指揮のコッポラの趣味が反映されているのかもしれないが、ハードボイルド物のセオリーに実直に従ったようなストイックな作品に仕上がっている。また、主演はハメットそっくりのフレデリック・フォレスト。作家目線で事実を客観的に見つめる異色の探偵を淡々と演じている。演出、芝居共に地味ではあるが、舞台となる1920年代のアメリカの気だるく怪しい雰囲気がよく出ている。
本作のように著名人が登場する映画としては、H・G・ウェルズが切り裂きジャックを追うSF『タイム・アフター・タイム』、アインシュタインが恋のキューピッド役のラブ・コメ『星に想いを』などが有名である。
<<ストーリー>>
1928年のサンフランシスコ。元探偵で現在は探偵小説を書いている作家サミュエル・ダシール・ハメット。彼が新作を書き上げた時、小説のモデルにしているピンカートン探偵局時代の同僚ジミー・ライアン(ジェームス・フランシス・ザビエル・ライアン)が訪ねてきた。ライアンは16、7才の中国娘の捜索の最中だった。捜索の手伝い頼まれたハメットは、ライアンをチャイナタウンに案内するが、見知らぬ男から発砲されることに。その騒動が元でハメットはライアンとはぐれ、おまけに持ち歩いていた原稿までなくしてしまった。
とりあえず、一人で部屋に戻ったハメットは、ライアンからの電話で指示を受け、部屋の分厚い辞書に挟まれていた新聞記事を検めた。それは、キャラハンという木材王の自殺を伝える記事だった。ハメットはキャラハンの弁護士であるハーゲドンという男が事件の鍵を握っているとにらんだ。
キャラハンの検死を行ったG・ファロンを訪ねたハメットは、キャラハンの自殺に絡んだと思われるフォンという男の存在を知った。チャイナタウンの実力者であるフォンは、人身売買で手に入れたクリスタル・リンという少女に売春させていたが、現在、彼女は行方不明になっていた。クリスタルが消えた日は、キャラハンの死んだ日と重なっていることにも何か意味がありそうだった。
ハメットが部屋に戻ると、そこには見知らぬ中国娘がいた。“クリスタル”を名乗るその娘は、有名なハメットを頼ってここへ逃げてきたのだった。彼女の話では、キャラハンは自殺したのではなく、夫がクリスタルを買春したことに嫉妬した夫人によって殺されたのだという。
ハメットはフォンのカジノを訪ね、本人と会見した。フォンもクリスタルのことを探していて、彼女の場所を教えるなら原稿を返すとハメットに取引を持ちかけた。その申し出を拒否したハメットは、殴られてカジノに監禁された。店内を彷徨っていたハメットは、下階の牢屋から聞き覚えのある声に呼びかけられた。声の主はハメットと同じように監禁されていたライアンだった。ハメットとライアンは、力を合わせてフォンの店を脱出した。だが、ハメットは待ち構えていたオマラ刑事に捕まり、再びライアンとはぐれてしまった。
ハメットが警察の厳しい事情聴取を受けていた時、クリスタルが殺されたという報せが届いた。事件の起こった瞬間、彼女の悲鳴を聴いたと証言する者はいたが、肝心の死体の顔は潰されていて、本人である確証は得られていないようである。オマラはハメットにある一本のフイルムを見せた。それは、クリスタルの出演するポルノ映画だった。
釈放されたハメットは女友達のキットと共に、ライアンを上得意としていたポルノ写真屋のゲーリー・ソルトの部屋に進入した。だが、物陰に潜んでいた二人の目の前で、ソルトは何者かに射殺されてしまった。ハメットはソルトの部屋である一枚の写真を手に入れた。それが事件の真相にたどり着く重要な鍵となった……。
クレジットはこちら