孤独な少年と宇宙からやってきた巨大ロボットのふれあいを描く感動アニメーション。

アイアン・ジャイアント

THE IRON GIANT

1999  アメリカ

86分  カラー



<<解説>>

テッド・ヒューズの童話「アイアン・マン」を、ロックバンド“ザ・フー”のタウンゼントがロック・オペラ化したものを、さらにアニメーション化。そのため、ストーリーはヒューズの原作とだいぶ違っている。監督は、後にピクサーで傑作『Mr.インクレディブル』を手がけることになるアニメ作家ブラッド・バード。
少年が謎の生き物(ここではロボット)と出会い友だちになるが、悪い大人がその仲を裂こうとして…というスートーリーは『E.T.』を例に挙げるまでもなく、童話の世界では大昔からやりつくされているものだが、シンプルながらも丁寧に作りこまれた脚本、ノスタルジーを巧み織り交ぜた世界観、そして、とセルとCGを組み合わせたアニメーションの完成度が高く、「プロも泣かせた」という公開当時のうたい文句も頷ける出来となっている。
物語の背景となる1957年というのは、人類初の人工衛星“スプートニク”の打ちあげによって、SFが現実のもとになりつつあった時代である。また、同時に、米ソのミサイル開発競争の激化によって核に対する危機感が現実的なものになった時代である。鉄人“アイアン・ジャイアント”の登場は、まさにそんな時代の雰囲気のメタファーであるが、その存在が脅威となるか希望となるかは、人間の心構えしだいである、という強いメッセージも示している。そのあたり、悪と正義の両面をあわせ持つ“ゴジラ”を想起させるので、アメリカ製のアニメが苦手な人にも取っ付きやすい作品かもしれない。
鉄人はCGで描かれているが、親しみやすいレトロなデザインは、作品の顔としての魅力的に溢れている。表情も優しく豊かなのだが、鉄の顔を伸縮させるなどといったヤボなことはしない。わずかな目や口の開閉や仕草のみで感情の変化を現しているのが見事で、空を飛べることに気付いた時のびっくり顔は特に愉快だ。しかし、この映画がもっとも素晴らいのは、ついに正体を表したロボットの姿を、子供のトラウマになりそうなほど掛け値なしに描いているところで、普段のロボットとのギャップが物語に確固たる説得力を与えている。『ノートルダムの鐘』で“カジモド”をあんなにかわいらしくしてしまったディズニーにはとても出来ない芸当だろう。



<<ストーリー>>

ソ連の人工衛星スプートニクが打ち上げられた1957年。メイン州沖合いを航行していた漁船の前に、体長30メートルの巨大なロボットが現れた。海辺の小さな町に母親のアニーと二人で暮す小学生ホーガース・ヒューズは、SFドラマやコミックが大好きな少年。だが、飛び級で進学した秀才だったために、いじめっ子に「ガリ勉」とからかわれ、友だちがいなかった。
アニーの残業した夜、ホーガースがひとりで家にいると、突然テレビが映らなくなった。屋根に登ってみると、テレビのアンテナがなくなっていて、地面には何かを引き摺ったような跡が付いていた。原因を確かめるため、地面のわだちを辿っていったホーガースは、森の中の発電所で巨大ロボットが鉄骨を食べている場面に遭遇。そのうち、ロボットは電線にからまって感電してしまった。ホーガースは発電所のスイッチを切ってロボットを救うと、一目散に家に帰ったのだった。
翌日、落下物の調査のため、政府のエージェント、ケント・マンズリーが町にやってきた。建物についたかじられたような痕を確認して回っていたマンズリーは、乗ってきた車がかじられたのを見て、ただ事でないことに気付いた。一方、学校の終わったホーガースは、証拠の写真を撮ろうと発電所まで待ち伏せ、ロボットと再会。ロボットは地球に落ちてきた衝撃で頭がへこんでしまい、自分が何者か分からなくなっていた。ホーガースはロボットが安全であることを知ると、彼に言葉を教え、ペットにしようと考えた。さすがに家まで連れ帰ることが出来なかったが、ロボットはホーガースの後に付いていきた。そして、ロボットはちょうど通りかかった貨物列車と衝突して、バラバラになってしまった。だが、自己修復機能によって、ロボットはすぐ元通りに。
ホーガースはとりあえず、ロボットは自宅の納屋に隠すことにした。その夜、ヒューズ家に電話を借りに行ったマンズリーは、ロボット出現現場に落ちていた銃の破片に記されていた名前がこの家の子供のものであることに気付いた。ホーガースは、マンズリーがロボットのことを調べに来たことを察し、彼を強く警戒した。マンズリーが帰った後、ホーガースはお気に入りのコミックを納屋に持ち込んだ。ロボットは、悪のロボット“アトモ”は気に入らないようだったが、正義のヒーロー“スーパーマン”には興味を示した。
深夜、ホーガースは、おなかをすかせたロボットを連れ、スクラップ工場に向かった。ロボットに鉄くずを食わせている時に、工場の管理者のディーン・マッコーピンに見つかってしまった。ホーガースはディーンを説得し、ロボットを一晩だけここにおいてもらうよう頼んだ。
翌朝、一睡もせずに家に帰ったホーガースを悪い知らせが待ち受けていた。空き部屋の借り手がマンズリーに決まったのだ。マンズリーは町の案内と称してホーガースを連れ出し、国家防衛のためにロボットの居場所を教えろと、迫った。ホーガースはマンズリーに下剤を飲ませると、その場から逃げ出した。だが、マンズリーは森の中で拾ったホーガースのカメラから写真を現像し、ロボットが映っている一枚を見つけた。一方、その頃、ホーガースは森でロボットと遊んでいた。ロボットは森の中で見つけたシカに興味を示し手を差し伸べるが、その直後、シカはハンターによって撃ち殺されてしまった。はじめて目の当たりした死に衝撃を受けたロボットは、「殺すことは悪いこと」だとホーガースから教えられるのだった……。



クレジットはこちら