家族の死により心がバラバラになった一家の苦悩と癒しを描く感動作。

息子の部屋

La stanza del figlio

2001  イタリア/フランス

99分  カラー



<<解説>>

独特のユーモアセンスとシニカルな作風を持ちながら、映画で私小説を堂々とやってのけてしまう異能の監督モレッティ。彼がカンヌで大絶賛を浴びた本作は、意外にも素直に泣ける感傷的な作品だった。ただ、なまらパルムドールを取ってしまった本作は、メジャー公開という、ある意味で憂き目に遭ってしまい、その結果、無遠慮な批判により“自慰行為”との烙印が押され、低い評価が確定してしまったようだ。「映画は大衆に奉仕すべき」というのは当然。しかし、それが絶対的で、作者の“自己満足”は許されないという誤識が支配的になってきているのかもしれない。
さて、本作は、決して一般的にウケるものではなく、モレッティの“自慰行為”であることは否定できない。しかし、ここではその“自慰行為”もエンターテインメントになっているのである。面白くないという人は、それは感性が合わなかったというだけなので、素直に諦めてもらうしかないのかもしれない。
“自慰行為”や“自己満足”はさておき、この映画の素晴らしさのひとつは、普通の映画では劇的に描かれるはずの人の死が、誇張もなく、むしろ押さえ気味に描かれているところである。ここでは、息子の死が事件なのではなく、その後の家族の心がバラバラになっていくことが事件として捉えられていて、いままでの通りの普通の家族をとりつくろうとしても心が離れていく様子が、じっくりと丁寧に描かれていく。実際に家族を亡くした場合は映画のようにはいかないだろうが、「家族が死んだ時って、こんなふうに混乱状態になってしまうんだな」ということが想像出来て、どうにもいたたまれない気持ちにさせてくれる。



<<ストーリー>>

カウンセリングを生業とする精神科医のジョバンニは妻パオラの手助けもあって仕事は上々。高校生になる娘のイレーネと息子のアンドレアとの関係も良く、平凡ながら幸せな日々を送ってた。
そんなある日、学校に呼び出されたジョバンニは校長からアンドレアの謹慎処分を言い渡された。学校の備品である化石を盗まれ、その容疑者としてジョバンニの名が挙がったからだ。ジョバンニは、アンドレアが化石を持っているこころを目撃した同級生に事情を聞きに向かい、それが見間違えであったことを確認した。アンドレアはジョバンニに対しては事件についてはっきりした事を話さなかったが、パオラだけには、教師をからかおうとして化石を盗んでしまったことを打ち明けていた。
近所の海にダイビングに出かけた日、ジョバンニは自殺志願の患者オスカーの家を訪ねていた。重病に罹っていることが発覚したオスカーは「おかげで生きようと思うようになった」とジョバンニに告白した。帰宅したジョバンニは自宅の前で泣いている妻と娘を見つけ、アンドレアによくないことが起こったとすぐ分かった。アンドレアは海底の洞窟を探険中にボンベの酸素がなくなり、溺れたのだった。
アンドレアの葬儀の後、パオラはショックで寝込んでしまった。ジョバンニとイレーネは普段どおりの生活を続けていたが、心の中はあまりの悲しみに茫然となっていた。アンドレアの死を神の思し召しとして受け入れられないジョバンニは、ボンベの故障の所為にしようとし、それを否定するパオラと衝突した。イレーネも弟の死に動揺し、部活動のバスケットの試合も上手くいかなかった。彼女は両親に隠れるように一人で泣いた。
ある日、イレーネは郵便受けに投函されていたアンドレア宛ての手紙を見つけた。差出人はイレーネたちの知らない、アリアンナという名の少女だった。手紙を読んだイレーネは、その内容からアンドレアがキャンプの時に出会ったガールフレンドであると確信した。すぐにでも、電話でアンドレアの死を知らせることは出来たが、ジョバンニはあえて手紙で知らせることにした。ジョバンニはアリアンナへの返事を書こうとするが、筆が進まず、書いてもすぐに反故にしてしまうのだった……。



<<キャスト>>

[ジョバンニ]
ナンニ・モレッティ

[パオラ]
ラウラ・モランテ

[イレーネ]
ジャスミン・トリンカ

[アンドレア]
ジュゼッペ・サンフェリーチェ

[アリアンナ]
ソフィア・ヴィジリア

[患者]
ステファノ・アバティ
トニ・ベルトレッリ
クラウディア・デラ・セタ



<<スタッフ>>

[原案]
ナンニ・モレッティ

[脚本]
リンダ・フェリ
ナンニ・モレッティ
ハイドラン・シュリーフ

[助監督]
アンドレア・モラヨリ

[製作担当]
ジャンフランコ・バルバガッロ

[音響]
アレサンドロ・ザノン (a.i.t.s.)

[衣装]
マリア・リータ・バルベラ

[美術]
ジャンカルロ・バシリ

[編集]
エズメラルダ・カラブリア

[音楽]
ニコラ・ピオヴァーニ

[撮影]
ジュゼッペ・ランチ (a.i.c.)

[製作]
アンジェロ・バルバガッロ
ナンニ・モレッティ

[監督]
ナンニ・モレッティ

[提供]
サシェル・フィルム

[イタリア=フランス共同製作]
サシェル・フィルム (ローマ)
バック・フィルム (パリ)
ステュディオ・カナル (パリ)

[協力]
ライ・シネマ
テレ・ピウ