<<EPISODE 1 MAGNETIC ROSE 彼女の想いで>>
2092年。四人の乗組員を乗せて宇宙空間を行く回収船コロナは、障害物排除の作業の帰りに、宇宙の墓場と呼ばれるサルガッソー宙域から緊急信号を受信した。ベテランのハインツと女たらしのミゲルは、船長のイワノフとオペレーターの青島を残し、救助活動に向かった。信号の発進源は漂流物が寄せ集まって出来た巨大な宇宙船だった。宇宙船内に潜入したハインツとミゲルは、目の前に広がった意外な光景を目を丸くした。そこはシャンデリアがきらめく大ホールで、窓の外には美しい庭が広がっていたのだ。
壁の肖像画に描かれた上流階級と見られる女性がこの邸(宇宙船)の主らしい。だが、邸の中に存在する調度や装飾はすべて見せかけで、ロボットが用意した食事も、クローゼットルームの衣装も作り物だった。青島の調査により、主の女性エヴァ・フリーデルは、前世紀で天才と言われたソプラノ歌手であることが分かった。名声をほしいままにしていた彼女だったが、声を潰した上、婚約者のテノール歌手カルロが何者かに殺害されるという不幸にみまわれた。その後、彼女はこの宇宙の辺境に引きこもり、過去の栄光に浸っていたようだ。
ハインツとミゲルは、邸の中で移動を続ける信号を追いかけ、二手に分かれた。ミゲルは邸のはずれで朽ち果てたピアノを発見。鍵盤を叩いたミゲルの前にエヴァが現れた。一方のハインツは、劇場の舞台の上に迷い込んでいた。舞台の上にはエヴァもいて、振り向いた彼女にナイフでハインツの腹を刺した。気がつくと、彼は妻アンナと十歳になる娘エミリィと朝食のテーブルを囲んでいた……。
<<EPISODE 2 STINK BOMB 最臭兵器>>
山梨の甲府にある西橋製薬の研究所。風邪を引いて出勤した研究員の田中信男は、みかねた同僚から解熱剤のサンプルあることを教えられた。赤いケースに青いカプセル。そう聞いて、所長室にサンプルを探しにいった信男は、デスクの上に放り出されていた青いケースの中の赤いカプセルを間違えて飲んでしまった。サンプルに触れられたことに気付いた所長の大前田は、血相を変えて研究室に飛び込み、その場にいた所員に誰の仕業か問いただした。あのサンプルは政府からの依頼で極秘に開発した特殊な新薬だというのだ。
体調が悪くなって応接室で横になっていた信男は、すっかり熟睡してしまい、気付いたら翌朝になっていた。早朝の所内をひとめぐりした信男は、自分をのぞく所員のすべてが昨日の状態のまま意識不明になっているのを見て仰天した。事故があったと思い、所長室に行くと、大前田が電源の前に手を伸ばしたまま倒れていた。倒れる前にアラームを切断したようだ。電源を入れると所内にアラームが鳴り響き、本社と緊急回線でつながった。所内の様子をモニターで確認した本社の韮崎館長は、事態を察すると、信男に新薬の資料とサンプルを東京にある本社まで持ってくるよう命じた。
資料とサンプルを鞄に詰め、自転車で出発した信男だったが、辺りのようすがおかしいことに気付いた。気絶した小動物があちこちに転がり、真冬なのに桜とひまわりが同時に咲いているのだ。信男はそれが自分の体から発する臭気が引き起こした異常なのだとは思いもしなかった。
西橋製薬から連絡を受けた政府は、直ちに東京に対策本部を開設。本部長はその時はじめて、西橋の韮崎と蒲田専務の口から新薬の存在を知った。新薬は、もとはPKO活動時の対生物兵器の目的で開発されたガス兵器だったのだが、開発の過程で予想以上の効果をあげていたのだ。ガスの範囲が研究所より移動しているとの報告を受けた韮崎と蒲田は、信男が研究所の唯一の生き残りであるという事実に気付き、真っ青に。この災害の張本人がこちらに向かっているのだ。
その頃、中央自動車道を東へ向かっていた信男は、笹子トンネルを通過していた。臭気の発生源が信男であることが特定されたが、ガスが発汗と共に合成醸造されるため、彼を刺激するようなことはできない。東京侵入を阻止するには本人を殺すしかないのだ。政府は自衛隊の戦闘機、戦闘ヘリ、戦車などを総出動させ、信男の抹殺に乗り出した……。
<<EPISODE 3 CANNON FODDER 大砲の街>>
少年の一日は廊下に張られた英雄のポスターに敬礼することから始まる。彼の暮らす街は無数の大砲が海に向けて設置された城砦都市だった。少年の父親は17番砲台の装填手として働いていた。砲撃は儀式のように正確な手順で進められ、最後に厳かに登場する砲撃手がトリガーを引く。これが各砲台で一日に何度も繰り返されるのである。少年の通う学校の授業の内容も砲撃に関することで、その日は三角関数の勉強だった。工場で働く母親の仕事も砲弾の製造である。人々の生活は大砲を中心に回っているのである……。
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