大使館から逃げ出した小国の王女とスクープを狙う新聞記者の
ローマで過ごした一日を描くラブ・コメディ。

ローマの休日

原題ROMAN Holiday
別題ローマの休日
デジタル修復版
製作年1953 年
製作国アメリカ
上映時間118 分
色彩モノクロ



解説
オードリー・ヘプバーンの初主演で、いきなりスターのグリコリー・ペックと共演した作品。決して美人ではないオードリーが、生まれた持った表現力で清楚で可憐な王女を見事に演じてる。良くも悪くもこの一作で清純派のイメージが定着したが、男女共に愛される希な女優となり、現在もなおファンを増やしつづけている。
王位継承を約束されている王女。でも、その内面は一人の女の子。普通の生活に憧れ、親善旅行先のローマで逃げ出した彼女が、偶然から新聞記者と出会う。今まで男性と二人きりになったことのない王女が、新聞記者と一緒にこの上なく楽しい一日を過ごす――という御伽噺。「シンデレラ」をモチーフにしたラブストーリーが親しみやすいばかりではなく、世間知らずの殿様が城下町に下りてくるというシチュエーションも「目黒のさんま」などの落語で日本でには既にお馴染み。このように物語を受け入れる下地があった上、「シンデレラ」とは異なり男女が結ばれないラストが悲観的な日本人の感性に合ったようだ。また、ヨーロッパへの憧れも手伝った結果、『第三の男』と並び、世界的な評価もさることながら、特に日本で支持される作品となった。モノクロ映画として珍しくテレビで頻繁にかるる作品であり、生涯ナンバー1の作品に選ぶ映画ファンも少なくない。
ローマの街角で出会った王女と記者は、それぞれの理由で素性を伏せることになる。王女は国益のため。記者はスクープのため。二人はウソをついたまま一日を過ごすのだが、この“ウソ”が物語の要点となってる。また、もう一つの要点として、“ウソ”と相反する“信頼”が上げられ、この二つの要点を中心に物語は展開していく。余りにも有名な“真実の口”の場面はテーマの象徴でもあると共に、物語のターニングポイントになっていて、この場面を境にウソと信頼のバランスが逆転してしまう。前半はウソをつくことが最重要であり、それをとっかかりにしたコメディとなっていたが、後半からは小さなウソを越えた大きな信頼で結ばれる様を描くドラマとなっていく。そして、物語も終盤にさしかかると、二人が素性を隠す理由が当初のものから極めて個人的なものへ変化していることに気付くだろう。二人は相手を欺くためではなく、“信頼”を守るために素性を隠そうとするのである。ここまで来ると、本心を言葉にすることすらためらわれる状態となり、実際、「愛している」とかそれに類する言葉が出ることもない。ここからがまさに本作の真骨頂であり、別れの場面からラストシーンまで、実にいじらしい場面の連続で上り詰めていく(記者が椅子に座って茫然としている場面、ズボンに入れっぱなしになっているネクタイに注目)。最終的には互いのウソが発覚してしまう。だが、信頼を貫いた結果として、ウソについての追及がないどころか、物語的に何も変化がおこらないラストは言葉も出ない。



ストーリー
ヨーロッパを親善旅行中の小国の王女アンがイタリアのローマにやってきた。笑顔で歓迎に応えるアンだったが、連日のお決まりの公務にすっかり疲れ果てていた。その夜、賑やかなローマの町並を窓から眺めていたアンは、明日も分刻みのスケジュールが詰まっていることに嫌気が差してしまった。不満を爆発させたアンは、侍医のモナコーベに睡眠薬を注射されておとなしくなった。だが、側近の将軍がいなくなった隙にこっそり窓から寝室を抜け、トラックの荷台に隠れて大使館から憧れの町へと出ていった。だが、町に下りて来たはいいものの、さきほどの睡眠薬が回ってきて、アンはそのまま寝込んでしまった。
アメリカン・ニュース・サービスのローマ支社に常駐する新聞帰社ジョー・ブラッドリーは、友人のカメラマン、アーヴィングとポーカーを楽しんだ帰りに、街頭のベンチで寝ている若い女性を見つけた。ジョーは親切心で女性を起してタクシーに乗せるが、家の住所を聞いても寝ぼけながら「コロセアム」と応える始末。タクシーの運転手に女性を押し付けようとしたが断わられ、ジョーは結局、女性を自分のアパートに連れて帰ることになった。ジョーは女性をカウチに寝かせると、自分はベッドに横になって就寝した。一方、大使館では、アンが居なくなったことに気付いて大騒ぎになっていた。王位継承者である王女がいなくなったとなれば一大事である。将軍は失踪の事実を伏せ、王女が急病になったと発表した。
翌日、ジョーが目を覚ますと時計はすでに正午を回っていた。十一時四十五分からアン王女の記者会見に出る予定だったのに、寝過ごしてしまったのだ。ジョーはまだ寝ているカウチの女性をせのままにし、とりあえずオフィスに急いだ。ジョーは上司のヘネシーに、記者会見に行ってきたとウソをつくが、すぐにそのウソは見破られてしまった。実は、王女は今朝の三時から急病になり、記者会見は中止になっていたのだ。ヘネシーが示した新聞記事に目を通したジョーは、記事に添えられていた王女の写真を見てはっとした。昨夜、拾った若い女性にそっくりだったからだ。ジョーはアパートに管理人のジョバンニに電話をかけると、部屋の見張りを頼んだ。そして、アン王女から本音を聞きだすことと、彼女の写真を撮ってくることをヘネシーに約束した。そのスクープをものにできるかどうかは、ヘネシーとの賭けである。
王女は明日アテネに発つので、あまり時間は残されていない。ジョーはアパートに戻ると、カウチの女性と新聞記事の王女を見較べ、それが王女本人であることを確認した。ジョーに起こされ目を覚ましたアンは、ここが大使館の寝室でなく、モナコーベもいないことに気付いて、しばらく茫然としていたが、昨夜の出来事を思い出すと、ジョーに“アーニャ”と名乗った。ジョーはアーヴィングを呼び出すため、急いで電話をかけに行くが、部屋に戻ってみると、“アーニャ”ことアンは既に帰り支度を始めていた。ジョーはアンを引きとめることが出来ず、文無しの彼女に1000リラを渡すと、そのまま送り出してしまった。
だが、ここで引き下がるジョーではなかった。ジョーは町を散策するアンの後をこっそりつけて行ったのだ。ジョーが追ってきているとは知らないアンは、美容院に入って思い切って髪を短くしたり、屋台でアイスクリームを買ったりして、庶民の生活を楽しんだ。ジョーは、時計台の階段でアイスクリームを舐めているアンに偶然を装って近づき、彼女に市内案内を持ちかけた。快くジョーの好意に乗ったアンは、カフェでおしゃべりすることに。ちょうどそこへ、ガールフレンドと待ち合わせに来たアーヴィングが現れた。ジョーはアーヴィングに例の儲け話を耳打ちし、アンの写真をライターに仕込んだカメラで撮影させたのだった。
ジョーはスクーターの後ろにアンを乗せ、市内の観光に出発。アーヴィングはカメラを構えながら、自動車でスクーターを追った。ところが、ジョーがちょっとの間、目を離した隙に、アンがスクーターを自ら運転。慌ててジョーも飛び乗ったが、暴走したスクーターは町の人々を蹴散らし、警察の御用に。警察では、ジョーとアンは新婚を装い、「教会に急いでいるところだった」と言い訳し、大目に見てもらったのだった。さて、楽しい市内観光も一段落。ジョーは、「踊りたい」というアンのリクエストに応え、サンタンジェロの艀船のパーティへ向かうことにした。
夜になり、ジョーとアンは艀船にやってきた。パーティには、昼間にアンの髪を切ってくれた美容師マリオ・ディラーニも来ていた。アンはマリオに誘われ、彼と一緒に踊り始めたが、その時ちょうど、大使館の呼んだ諜報部員たちがアンを探しに船にやって来た。諜報部員の一人は、マリオと踊るアンを発見すると、彼女にダンスの誘いをかけ、耳元で一緒に帰るようささやいた。アンの悲鳴を聞き、駆けつけたジョーは、諜報部員たちと大乱闘を繰り広げた。アンもジョーに加勢するが、諜報部員を追い払いきれなくなり、海に飛び込んだ。混乱の中から脱出し、岸に泳ぎ着いた二人は、びしょ濡れの互いの顔を見合わせ、笑い合った。そして、次の瞬間、二人はキスを交わしたのだった。
アパートに帰ってきたジョーとアンは酒を飲みはじめたが、二人とも変によそよそしくなっていた。二人とも別れの時が近づいていることを感じていたのだ。「料理だって縫い物だって何でも出来る」とアン。「ならば広い家に越した方がいい」とジョー。ジョーのその言葉を聞き、アンは帰る決心をした。アンはジョーに車で大使館の直前の角まで送ってもらった。アンは、角の先は見ないことをジョーに約束させると、彼と再びあついキスを交わした。そして、車を降りたアンは振り向きもせずに角の向こうへ走り去っていったのだった。
夜が明けた。あれから、ジョーはのアパートの部屋の椅子に掛けたまま、まんじりともせずにいた。朝一番に部屋を訪ねてきたのは、ヘネシーだった。ヘネシーはジョーに昨日の約束を果たさせようとした。だが、ジョーはスクープの失敗をそっけなく告げ、ヘネシーを部屋から追い出した。続いて訪ねてきたのは、現像したアンの写真を持ってきたアーヴィングだった。ジョーは、アンの様々な表情を捉えた写真を一枚いちまい笑顔で眺めた。だが、儲け話の件からは降りることを告げると、アーヴィングに写真を返したのだった。もうじき、昨日から延期になったアンの記者会見が大使館で始まろうとしていた。
会見のために大使館の大広間に現れたアン王女は、記者たちの中に立つジョーとアーヴィングの姿に気付くが、毅然とした態度で質問に応じていった。諸国の友好について尋ねたアンは、「人と人との友情を堅く信じる」と応えた。ジョーは挙手し「あなたの信頼は裏切られないでしょう」とアンに言った。最後の質問で、訪問地の中で特に気に入った場所を尋ねられたアンは、迷わず「ローマ」と答えた。写真撮影の後、アンは自ら記者の前に下りて行き、記者の一人ひとりと握手を交わした。アーヴィングは記念品として、アンに昨日の写真を全部渡した。ジョーは「アメリカン・ニュース・サービスのジョー・ブラッドリー」と自己紹介し、アンと握手をした。会見が終りアンが去った後も、ジョーはいつまでも広間に残っていた。そして、他の記者がいなくなり一人になってしまうと、ジョーはゆっくりと広間を後にしたのだった。



キャスト
グレゴリー・ペック Gregory Peck
オードリー・ヘプバーン Audrey Hepburn
エディ・アルバート Eddie Albert
ハートリー・パワー Hartley Power
ハーコート・ウィリアムズ Harcourt Williams
マーガレット・ローリングス Margaret Rawlings
テュリオ・カルミナティ Tullio Carminati
パオロ・カルソーニ Paolo Carlini
クラウディア・エメリー Claudio Ermelli
パオラ・ボルボーニ Paola Borboni
アルフレード・リッツォ Alfredo Rizzo
ローラ・ソラリー Laura Solari
ゴレッラ・ゴーリ Gorella Gori

スタッフ
脚本
Screenplay by
イアン・マクレラン・ハンター
Ian McLellan Hunter
ジョン・ダイトン
John Dighton
原案
Story by
ダルトン・トランボ
Dalton Trumbo
撮影
Director of Photography
フランク・F・プラナー(フランク・プラナー),A.S.C.
Frank F. Planer (Franz Planer) , A.S.C.
アンリ・アルカン
Henri Alekan
装飾監督
Art Directors
ハル・ペレイラ
Hal Pereira
ウォルター・タイラー(ウォルター・H・タイラー)
Walter Tyler (Walter H. Tyler)
編集
Edited by
ロバート・スウィンク,A.C.E.
Robert Swink, A.C.E.
衣装
Costumes
エディス・ヘッド
Edith Head
助監督
Assistant Director
ハーバート・コールマン
Herbert Coleman
ピエロ・ムゼッタ(バーナード・ヴァーハウス)
Piero Mussetta (Bernard Vorhaus)
メーキャップ監修
Make-up Supervisor
ウォーリー・ウェストモア
Wally Westmore
アルベルト・デ・ロッシ
Alberto De Rossi
録音
Sound Recordist
ジョセフ・デ・ブルターニュ
Joseph de Bretagne
撮影所
Filmed at
チネチッタ・スタジオ(ローマ,イタリア)
Cinecitt?#224; Studios (Rome, Italy)
製作補
Associate Producer
ロバート・ワイラー
Robert Wyler
背景音楽
Music Score by
ジョルジュ・オーリック
Georges Auric
製作/監督
Producer adn Directed by
ウィリアム・ワイラー
William Wyler

プロダクション
提供
パラマウント映画
Paramount Picture
製作
Production
ウィリアム・ワイラー
William Wyler