後継者問題に悩み、愛知県渥美半島に釣り旅行に出かけたスーさんが旅先で不倫?
一方、ハマちゃんは休暇届の嘘がバレで懲戒免職の危機に。

釣りバカ日誌2

製作年1989 年
製作国日本
上映時間96 分
色彩カラー



解説
『釣りバカ日誌』の予想外の好評を受けて製作された続編。愛知県渥美半島を舞台にし、スーさんの不倫疑惑に端を発する、釣りバカコンビの友情の危機を描く。主演コンビをはじめとしたキャスト、監督・栗山富夫、脚本・山田洋次と主要スタッフはほぼ続投。音楽は前作の三木敏悟に替わって、久石譲が担当。久石が「釣りバカ」の音楽を手掛けたのは本作だけだが、彼の作曲した「鈴木建設社歌」はシリーズでしばらく使用されることになる。
前作の設定では、主人公“ハマちゃん”こと浜崎伝助は、鈴木建設高松支社の所属だった。書類上の手違いで一時的に東京本社に転任し、社長である“スーさん”こと鈴木一之助と釣りを通じて友情をあたためたのち、高松に帰っていくというところで物語が終わった。ところが、続編である本作は、金沢八景の自宅(前作は北品川)から東京本社へ通勤する場面から物語が始まる。鈴木建設と社長にも変化が現れている。前作では中堅企業程度の大きさだった本社が、ゼネコン然として巨大ビルに。ハマちゃんとの出会いのとっかかり上、みすぼらしかったスーさんも、品良く身だしなみが整った佇まいに。つまるところ、一作目の設定や転勤の件はなかったことにされたのだ。高松から再び東京へ戻すのは、シナリオ的に無理があるとの判断だった。
ハマちゃん&スーさんのコンビという大前提以外は、過去を引き継がずに一作で完結させるというスタイルがここに決まった。その結果、脚本に自由度が与えられ、テーマやストーリーが多様になったばかりか、時代劇や特別篇などで変化に富んだシリーズとして成功した。また、過去のエピソードを振り返ることはあまりないため、一作目からのファンでないビギナーでも、とっつきやすいという功もあった。対する罪としては、4作目で誕生した鯉太郎の成長以外は、登場人物がほとんど成長しないところであり、マンネリを回避した代わりに、後期はとみにミニマルへと陥ってしまったきらいがある。「社長シリーズ」のような果てしないドタバタ劇なら良いが、家族や友情を描いくことを貫いた大河シリーズしては、何とももったない。
後継者問題で悩むスーさんが、思い詰めた挙句、ひとりで釣り旅行。旅先で出会った訳ありの女性と親しくなるが、それを不倫と疑ったハマちゃんとの間にひびが生じる。一方、ハマちゃんは、嘘の忌引きで休暇をとったことに加え、例の女性と一緒に撮った写真が原因で懲戒解雇の危機に、というストーリー。ここで、二人の関係は会社には秘密であるというルールがうまくきいてくる。危機を回避するために秘密をバラすか、それとも、懲戒に甘んじてルールを守るかの板挟みだけでも、喜劇として面白い。しかし、やはり恋愛的要素は外せない。とは言え、達成者であるハマちゃんと妻みち子にロマンスを演じさせられないので、結局、道化役はスーさんに回ってくる。旅先での美しい女性との淡い恋。いや、恋というより、社長という社会的立場の重圧からの癒しというか(前作では、この思いはみち子に向けられていた)。ともかく、スーさんに寅さん的な役回りを担わせていきいという目論見があったのかもしれない。



ストーリー
鈴木建設の社長・鈴木一之助は、心臓の検査をした主治医から、「いつ死んでもおかしくない」と脅かされた。引退したいのもやまやまの一之助だったが、後継者を育てることを怠り、後を託せる人材が会社に見当たらないのだった。社長の資質として必要なのは、運の強さと周りを明るくする性格。一之助は、それに該当する人物として、趣味の釣りの師匠である営業三課の平社員・浜崎伝助を思い浮かべるが、すぐに打ち消すのだった。
ある日の午後、一之助は、明日から三、四日休むと秘書に告げると、誰にも行く先も告げずに一人で愛知県へと旅立った。知多半島から渥美半島へ渡るフェリーの船上、一之助は、憂いを帯びた一人旅の美しい女性に目をとめた。一之助の旅の目的はもちろん釣りである。だが、浜で釣りを楽しんでいた最中に狭心症の発作で倒れてしまった。このまま海を眺め、釣りをしながら死ぬのも悪くない、気の遠くなる意識で思う一之助であった。
一之助がいなくなった夜、伝助は、一之助の妻から一之助の居所を尋ねられた。一之助が渥美半島の伊良湖のマダイ釣りに関心を寄せていたことを思い出した伝助は、そのことを一之助の妻に伝えた。一之助の妻に懇願され、一之助を迎えに行くことを約束した伝助は、嘘の忌引きの休暇届を会社に出すと、早速、馴染の船宿の運転する車で愛知へ出発した。
一之助はフェリーで見かけた女性に助けられ、事なきを得た。彼女のリゾート・ホテルの部屋で休ませてもらううちに日が暮れてしまい、彼女の好意に甘えるのまま、その部屋に泊まっていくことになった。女性の仕事はOLであり、仕事に疲れて思い切り贅沢をしたくなったときに、この部屋から海を眺めるのだという。その晩、夢にうなされていた彼女を、一之助は手を握って安心させるた。彼女は他人に言えない悩みを抱えているようだった。
翌朝、一晩かけて伊良湖へ駆けつけた伝助は、リゾートホテルのベランダで女性と一緒にいる一之助の姿を発見。伝助は一之助の不倫を疑い、部屋に乗り込んだ。一之助は伝助に、女性のことを自分の娘として紹介し、なんとかごまかすのだったのだったが、そんな成り行きだったため、女性とはその場で名前も訊かないままに分かれることに。その日、一之助と伝助はマダイ釣りを楽しむのだった。
翌日、伝助は出社早々、忌引きが嘘だったことがバレ、佐々木課長の大目玉を食らった。懲罰委員会では、課長が懸命に伝助を庇ってくれたが、さすがの伝助も免職を覚悟するのだった。その頃、一之助は打ち合わせのために吉田建設を訪ねていた。一之助は、吉田社長の秘書・間宮を見て目を丸くした。渥美で世話になったあの女性、その人だった。一之助は、吉田が席を外した隙に、間宮との再会を喜び、彼女に礼を述べるのだった。
帰社した一之助は、重役たちが伝助の処分に頭を悩まされていることを知った。というのも、規則にてらせば免職が妥当なのだが、伝助の処分の軽減を訴える署名と嘆願書が提出されていたからだ。一之助は、伝助の社員としては評価は別として、彼がいないと仕事がやりにくくなるというのは、この署名がなによりの証拠だ、と見解を示し、重役たちに伝助の免責を促した。もちろん、一度限りの特例であり、二度目はないという条件付きで。
次の休日、伝助、一之助、間宮、そして、間宮の息子の四人で海釣りを楽しんだ。一之助は、間宮の正体をまだ伝助に隠したままだった。そうとも知らない伝助は、レジャーの取材でやってきた新聞社に快く写真を撮らせてしまった。一之助は慌てて、後ろを向いて顔が映らないようにした。
だが、夕刊を見た妻の目はごまかせなかった。一緒にいる女性は誰なのかと問い詰められた一之助は咄嗟に、それは伝助の彼女だと言い訳。それを信じた妻は、今度は伝助を問い質そうと、浜崎家へ電話。一之助の妻の言葉から、どうもあの女性は一之助の娘ではないことを知った伝助は混乱。妻のみち子と一緒に話を整理をした結果、一之助が不倫をしていることを疑うのだった。
翌朝、伝助が出社すると、皆の彼に対する態度はなぜか冷たかった。訳のわからぬまま、社長室の査問委員会に呼びつけられた伝助は、そこではじめて、夕刊に一緒に載った女性が、吉田建設の社長秘書であることを知らされた。同業他社の社員と笑顔で写っているとなれば、世間には談合の証拠として見られるだろう、と重役たちから非難を浴びせられた。伝助は、写真の女性は後ろ向きに写っている紳士の彼女であり、吉田建設の社長秘書だとは知らなかったと主張した。
ここで問題になるのは、写真の紳士の紳士の正体である。頭に来ていた伝助は、紳士をことを「色ボケ爺ぃ」とののしるが、一之助との師弟関係という秘密の暴露までは思いとどまり、紳士の正体についてはついぞ口にしなかった。紳士の正体が不明である以上は、伝助の処分は免れなかった。地方に配転という案が出されたが、課長の機転により、釣り三昧ができる地方に飛ばすより、東京で出世コースに乗せるほうが、彼にとっては罰になるという結論に至った。
伝助の懲戒騒動が一段落した頃、吉田社長が書類の確認のために鈴木建設を訪ねてきた。同行していた間宮は近々結婚することを一之助に報告した。一之助は間宮を祝福し、握手で別れた。だが、渥美のホテルでの悩んでいるような彼女の様子を見ていた一之助は、結婚がほんとうにめでたい話かどうかが気がかりで、まだ素直に喜べないのだった。
その夜、浜崎家に一之助が訪ねてきた。今回の件について平謝りの一之助。伝助は、一之助と間宮との関係はどうでもよく、嘘をつかれていたこと自体に怒っていた。高級日本酒やカラスミといった一之助からの詫びの品々にも、伝助はかたくなだった。一之助は仕方なく、伝助がずっと欲しがっていた高級竿を手放すことに。大喜びする伝助を後目に、一之助は「物事はあきらめが肝心」と独りごちるのだった。