時制を超えて複数のエピソードが交錯する異色のバイオレンス・アクション。
パルプ・フィクション
原題 | PULP FICTION |
製作年 | 1994
年
|
製作国 | アメリカ |
上映時間 | 154
分
|
色彩 | カラー |
『レザボア・ドッグス』に続く、タランティーノの監督二作目。パルプ=三流大衆雑誌の記事のようなくだらない複数のエピソードを交錯させた、クスっ笑えるバイオレンス・アクション。出演はジョン・トラヴォルタ、監督の常連となるサミュエル・L・ジャクソンとユマ・サーマン、前作にも出演したハーヴェイ・カイテルとティム・ロス、さらに、ブルース・ウィリスという豪華な顔ぶれ。A級のキャストとA級のセンスでC級のストーリーを描く。当時、多くの映画ファンの圧倒的な支持を受け、現在でもファンが多い。
本作の最大の特徴は、出来事の発生順と語られる順序がまったく合っていないこと。朝の出来事の後に早朝の出来事が描かれ、夜の出来事が描かれた後、再び戻って朝の出来事の続きが描かれるという特殊な構成になっている。このような時制を前後させる手法は、ラテン・アメリカやアメリカのポストモダンなど、文学の世界では確立されていたが、時間的制約から自由なはずの映画では希であり、本作が最も成功した例となった。ウォン・カーウァイも同じ手法を得意とし、90年代の映画のファッションとなったが、タランティーノが直接的な影響を受けたのは、同時発生のエピソードを繰り返し描くいう手法を用いたキューブリックのデビュー作『現金に体を張れ』だと言われている。
時制を入れ替えることの効果としては、「感情を喚起し物語を劇的にする」、「謎と伏線を配し物語をミステリアスにする」、「観客に能動的な参加を促し物語に没入させる」等が挙げられるが、本作はそのどれにも該当しない。本作が得た効果は、あたかも「カードを乱雑に配る」あるいは「テレビのチャンネルをザッピングする」ようなラフさである。実際は、観客が混乱せずにストーリーを追えるような緻密な構成であろう。しかし、タランティーノが、「レストランで始まりレストランで終わるのがおさまりがいい」とか「この時間間隔でバイオレンス・シーンがあるのが丁度いい」とか「同じ俳優が出ずっぱりだと飽きるだろうから画替わりが欲しい」とか、プロットよりも気分優先で脚本を書いている様が想像されるのが楽しい。そういった無邪気さをウリにしていこうという彼の戦略は二作目でさらに明確になり、その目論見は見事に成功を収めた。
ある日のレストラン。この店で強盗をはたらくことを相談していたパンプキン(リンゴ)とハニー・バニー(ヨランダ)のカップルが、それを実行に移すべく勢いよく立ち上がった。
遡って朝。アムス帰りでヤク好きのビンセント・ベガと、人を殺すときに聖書の引用を好むピット・ジュールスの二人組のギャング。彼らは、ボスのマーセルス・ウォレスの命令で、ブツの入ったブリーフケースを取り戻すため、あるアパートへクルマを走らせてた。アパートに着いた二人は、そこにいた裏切り者、ロジャー、ブレット、マーヴィンの三人に銃を向けた。
その夜。ボクサーのブッチは、マーセルスに八百長で負けるよう命じられた。その頃、ビンセントは、マーセルスの妻ミアと、一晩だのデートをする役を命じられ、クラブへ繰り出した。ダンスを踊って、良い雰囲気になる二人。デートの後、ミアはビンセントの持っていたヘロインを試し、泡を吹いて倒れてしまった。慌てたビンセントは、売人のランスところへ駆け込み、ミアの心臓にアドレナリンを注射。ミアは一命を取りとめ、今夜のことは二人だけの秘密にすることに。
ブッチはマーセルスを裏切り、試合に勝った。彼は自分の勝利に大金をかけていたのだ。配当金を手にしたブッチは、倒した相手が死んでしまった事を知らずに、試合会場から逃走した。情婦のファビアンを連れて逃げようとするが、翌朝、家に代々伝わる大事な金時計をアパートに忘れたことに気付き、危険を承知で戻る決意をした。ブッチのアパートで張り込んでいたビンセントは、間抜けにもブッチに銃を奪われて、撃ち殺されてしまった。
金時計を手にアパートを飛び出したブッチは、路上でマーセルスとばったり。夢中で殴り合ううちに質屋に転がり込んだ二人は、店主のメイナードに捕まり、保安官を呼ばれてしまった。やってきた保安官のゼッドは、なぜかマーセルスを指名して別室に連れ込んだ。その隙に逃げようとしたブッチだったが、マーセルスの悲鳴を聞き、店にあった日本刀を手に引き返した。そこでブッチが目にしたのは、ゼッドにオカマを掘られるマーセルスだった。マーセルスを助けたブッチは、八百長の裏切りの件をチャラにしてらい、無事にファビアンと一緒に街を出て行くのだった。
再び遡って昨日の朝。ビンセントとピットがロジャー、ブレットを撃ち殺した時、隠れていたもう一人の男、ボニーに何発も発砲された。だが、奇跡的にも弾は一発たりとも二人にかすりもしなかった。その瞬間、神の存在を感じたピットは、マーヴィンの命を助けることに。だが、クルマで帰る途中、ビンセントの銃が暴発し、マーヴィンの頭が吹っ飛んだ。血だらけのまま、ピットのダチのジミーの家に寄った二人は、マーセルスに助けを求め、掃除屋を寄越してもらった。やってきたは、謎の紳士ウィンストン・ウルフ。彼の的確な指示により、クルマはきれいに掃除され、マーヴィンの死体は処分されたのだった。
レストランで遅い朝メシをとっている間も、ピットはビンセントに神の話を繰り返し、ギャングから足を洗うとまで言い出した。その時、パンプキンとハニー・バニーが突然立ち上がり、銃で客を威嚇し始めた。パンプキンは、ピットにブリーフケースを開けるよう命令するが、逆に銃を向けられてたじろぐはめに。ピットは聖書の引用でパンプキンを諭すと、ビンセントとともに悠然とレストランを後にしたのだった。