青森を舞台にしたシリーズ第2弾。
強盗事件の遺留品であるリンゴの種から事件の手掛かりを掴もう奔走する刑事を描く。

刑事物語2
りんごの
うた

製作年1983 年
製作国日本
上映時間106 分
色彩カラー



解説
博多出身のずっんぐりむっくりでさえない刑事が、地方に赴任し、捜査にかかわった事件を通じてヒロインと出会い恋心を抱くが、事件の解決とともに失恋し、新たな赴任地に旅立っていくというパターンの、刑事版「男はつらいよ」的シリーズ。武田鉄矢の脚本(片山蒼名義)と主演で好評を博し、全5作製作された。
シリーズ最高のヒットとなった2作目は、青森県弘前言市を舞台に、過去の恋愛で傷を負ったヒロインとの恋や、いじめられっ子の小学生との交流を交えながら、迷宮入りした現金輸送車襲撃事件の真相に迫っていく。クライマックス・シーンでは、シリーズを代表する名(迷)台詞「違ぁーう!木のやつぅー!」(ヌンチャクに使うために手取ったハンガーがプラスティック製だったためにこう叫ぶ)が飛び出す。
監督は、全作の助監督であった杉村六郎(第3、5作の監督も担当)。共演は、酒井和歌子、三浦洋一、寺田農、松村達雄他。シリーズでは新人女優がヒロイン役で劇場デビューを飾るのが定番となっているが、本作は抜擢されたのは未來貴子(園みどり名義)。シリーズで最も気の毒なヒロインを、たどたどしくも初々しく演じている。豪華なゲスト出演もシリーズの見どころで、本作では、倍賞千恵子と、映画初出演となるタモリ(タモリ一義名義)がワンシーンだけ出ているが、地上波のテレビ放映ではたいていカットされる。
笑いあり、涙あり、ロマンスあり、サスペンスあり、さらにアクションまでをも盛り込んだ構成は娯楽映画の手本である。主人公の片山刑事が中国拳法・かまきり拳の達人という設定がユニークであるが、これは主演の武田がジャッキー・チェンのファンであったためであるという。ジャッキー主演の刑事ものといえば、『プロジェクトA』や『ポリス・ストーリー』が代表作であり、それらのオマージュ思われがちだが、それらに先んじて「刑事物語」シリーズがスタートしていたというのは、驚くべき事実である。また、本作では、片山刑事がいじめられっ子にカンフーの特訓をして鍛え上げていくというエビソートがあるが、これも翌年に公開されることになる『ベスト・キッド』を先取りしている。
悲劇的なエピソードが多いため、トーンは始終暗く、笑いが少なめではあるが、男は強くならなければならない、という武田の(というより、九州男児の)哲学が貫かれていて、程よい余韻を残す作品に仕上がっている。緩急の使い分けが激し過ぎる武田の芝居は、まだまだ拙く感じられるが、激しい格闘シーンも含めて、気持ちよさそうに演じている様には非常に好感が持てる。ナルシシズムの極み、というと否定的に聞こえるかもしれないが、これこそが武田の持ち味ではないだろうか。



ストーリー
青森県。弘前中央署の刑事課のさえない刑事・片山は、犯人誤認というドジを踏み、減俸処分の上に一係からはずされた。ある日、署に札幌から捜査協力を求めて刑事がやってきた。札幌署の堂垣内刑事が携えてきたものは、一粒のリンゴの種。それは、二年前に発生し、未だに目撃者も手がかりも見つかっていない、現金輸送車襲撃事件の唯一の遺留品だった。堂垣内から種の品種分析を依頼を受けた署長は、ちょうど暇をしていた片山を「りんご係」に任命した。
片山は、「りんご試験場」にリンゴ研究の権威である谷村博士を訪ねた。だが、博士は、犯人割り出せないことはおろか、品種を特定することも不可能だと、片山を突っぱねるのだった。何の成果が得られないまま、堂垣内は札幌の帰ることになった。堂垣内が定年間近だと知った片山は、種を預かり、もう一度、品種分析を頼むことにした。
片山が再び試験場に行くと、博士は不在だったが、忍という若い女性研究員が、個人的に種の発芽までの面倒を見てくれることになった。忍の同僚によると、彼女は昔の男に弄ばれ、裏切られて以来、リンゴ一筋なのだという。試験場に通ううちに忍に行為を寄せるようになった片山は、種から芽が出た頃に、勇気を出してデートを申し込んだ。忍は、誠実な片山に心を許し、二人の仲は親密になっていった。
片山の捜査のことが、地方紙・北海道タイムスの記事になった。その夜、片山が試験場に電話をかけると、残業していた忍は、芽が双葉にったことを嬉しそうに報告。彼女は、紫色の花が咲くことを期待していた。片山との電話の直後、忍の研究室に三人の男たちが押し込み、部屋を滅茶苦茶にした。片山から預かっていた種を投げ棄てられたことで怒った忍は、逃げていく男たちのバイクにしがみついた。そのままバイクで引きずられた忍は、重傷を負い病院へ。片山は事件現場に駆けつけるが、そこへ忍の訃報が届いた。
忍の死のショックから立ち直れずにいた片山は、青函連絡船に乗って、札幌の北海道タイムスへ。忍か死ぬきっかけとなった記事を書いた玉垣記者に殴りかるが、記事は堂垣内へのはなむけとして書いたことものであったことを知り、反省。種から品種分析ができないことを知らずに試験場を襲撃したのだから、おそらく、犯人はリンゴに詳しくないのだろう。そう考えた片山は、ひとつでも手がかりを見つけて帰ろうと、忍の言っていた紫色の花のことを尋ねて回った。だが、手掛かりはつかめない上、単独捜査を署長に咎められて、自宅謹慎を言い渡されたのだった。
中国拳法の鍛錬のため、日々のトレーニングをかかさない片山に弟子ができた。いじめられっこの小学生・たけしである。たけしの家は母子家庭で、喫茶店を営む母親の澄江は、過去に札幌でキャバレーに勤めていたという。たけしにせがまれ、澄江で夕食をごちそうになった片山は、澄江の夫の霜山が旭川での酪農業の失敗で自殺し、借金のかたに澄江が売られたという辛く悲しい過去を聞かされた。
仕事が忙しくなり、トレーニングが出来ない日々が続いた。片山のことを遅くまで待っていたたけしが、署まで様子を見にやって来た。トレーニングを再開することを約束し、たけしを家まで送っていった片山は、庭に呆然と立ちつくす澄江を見た。彼女の見上げる先には、紫色の花をつけるリンゴの木があった。
澄江は、霜山の自殺の原因が、この寒さに強いリンゴの栽培に失敗したこと、また、キャバレー勤めで知り合った若本という男にそそのかされて、現金輸送車襲撃にかかわったことを告白した。もし、庭に紫色の花が咲いていることが若本に知れたら、澄江とたけしの身が危うくなるだろう。片山はその懸念を逆手に取り、玉垣に庭の木を記事にしてもらうよう頼んだ。
翌夜、片山は澄江とたけしをホテルに泊めて、一人で澄江の家で若本を待ち伏せた。そして、案の定、記事を見てやってきた若本と仲間の男たち六人を、得意の中国拳法を使ってたった一人で返り討ちにするのだった。その頃、ホテルにいたはずの澄江は、片山に置手紙を残して姿を消していた。手紙には、霜山との思いでの残る旭川の牧場を見た後、自首する決意が綴られていた。
片山はたけしを連れて、旭川で待つ澄江を迎えに行った。そこではじめて、片山が澄江を逮捕しに来たことを知ったたけしは、澄江を守ろうと片山の前に立ちふさがった。片山は、「男は強くなければ、大好きな人はみんな遠くへ行ってしまうんだぞ」と言い聞かせながら、たけしを激しく打ちのめしたのだった。
澄江を堂垣内に引き渡した片山は、たけしを。彼が澄江が出所するまで生活することになる施設へ送って行くことになった。片山は施設の中まではたけしと一緒に行くつもりでいた。だが、たけしは施設の前で片山に別れを告げると、振り返りせずに一人で堂々と施設へと入って行った。たけしの思いがけない成長に、男泣きする片山であった。