未だ宇宙に行ったことのない宇宙軍の有人ロケット打ち上げ計画。
パイロットに憧れていた一人の兵士が宇宙飛行士に志願する。
SF青春アニメーション。
王立宇宙軍
オネアミスの翼
原題 | 王立宇宙軍 |
別題 | オネアミスの翼
王立宇宙軍 |
製作年 | 1987
年
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製作国 | 日本 |
上映時間 | 119
分
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色彩 | カラー |
後に「新世紀エヴァンゲリオン」で社会現象を起こすことになる製作会社GINAXが、当時ほとんどが二十代のスタッフで作ったSF青春ドラマ。高度成長期かそれよりも前を思わせる、現代よりやや遅れた文明を持つ架空の世界を舞台としている。架空の文明というファンタジー的な世界観の中での若者たちのリアルな人物描写が異彩を放つアニメーションである。
いったん現実の文明を忘れて一から架空の文明を作りあげたその想像力と描写力には驚嘆させられるのがある。独特の風俗描写も興味深いが、はやりSF好きが作っているだけあって、メカ関係のディテールは半端ではなく、観れば観るほど発見がある。ただ、製作者のオタク的な興味が先走りし、それが内容の面白さに必ずしも結びついていないところは、観るものを選びそうではある。
また、主人公が若者らしい悩みを持ち、ごく当たり前の青春が描かれてるところは、この手のSFアニメでは異色であるばかりか、非常に私的な印象を受ける。おそらくは、幼い頃に人類の月面着陸に衝撃を受け、昭和四十〜五十年代に青春を過ごしたスタッフたちが、その精神的な背景をSFという手段で表出させようとしたことが想像させられる。だとすれば、彼らと同年代でないかぎり、本当の感動やノスタルジーが得られないのかもしれない。ただ、少なくとも、作品からほとばしる若いスタッフたちの情熱だけは心を打つものがあり、それが本作の最大の魅力となっている。
オネアミス王国の中流の家庭に生まれたシロツグ・ラーダット。子供の頃はパイロットを夢見ていたが、成績表の数字がその夢を阻んだ。そして、彼は宇宙軍に入隊した。宇宙軍はこれまで一度として敵と戦ったことはなく、ましてや宇宙にすら行ったことすらなかった。最近、シロツグは宇宙軍の兵士として意欲を失いつつあった。
宇宙服の実験で兵士が一人死に、その葬儀が催されたその日の夜、親友のマティらと気晴らしに繁華街へ出かけたシロツグは、賑わう街角でビラを少女に目をとめた。彼女は神の教えを説き、人間の罪を訴えていた。シロツグは少女に興味を持ち、翌日、受け取ったビラにかかれていた郊外の住所を訪ねた。少女はリイクニ・ノンデライコという名で、幼い妹のマナと二人暮しだった。
シロツグが宇宙軍兵士であることを話すと、リイクニは戦争をせずに宇宙を目指すという彼の仕事を称えた。リイクニの信仰には興味はなかったが、彼女の言葉でシロツグの悩みは吹き飛んだ。創立から20年目。宇宙軍の予算が削られることが決定された時、将軍が宇宙飛行士の候補者を募ると、シロツグはそれに名乗りをあげた。呆れるマティたちに構わず、シロツグは訓練に打ち込んでいった。
過酷な訓練を耐え抜き、まずまずの成績を収めたシロツグは、重力テストのために憧れの戦闘機にはじめて搭乗した。その一方、シロツグが乗ることになる宇宙戦艦建設の計画も着々と進んでいた。シロツグやマティたちは、ようやく宇宙戦艦の秘密工場に入ることを許された。そこでロケットを製作していたのは、“宇宙旅行協会”を自称する老人たちであった。シロツグたちは不安になるが、老人の中心人物であるグノォム博士の仕事は確かだった。
コックピット内での訓練中、シロツグにリイクニから電話にかかってきた。助けを求めるリイクニの声に、シロツグは訓練所を飛び出した。リイクニの家に行くと、建物を滅茶苦茶に破壊され、その前にリイクニとマナが佇んでいた。火力発電所建設のための立ち退きに応じなかったリイクニに対し、発電所側が実力行使に出たのだ。シロツグは激しく憤った。
ロケットエンジンの稼動テストで爆発が起き、グノォム博士が死亡した。また、宇宙飛行士のシロツグが英雄として祭り上げられる一方、ロケット打ち上げよりも雇用を求める声も高まり、宇宙軍の前で反対集会が開かれることもあった。リイクニからもらった経典を読むようになったシロツグは、戦争の道具であるロケットを打ち上げることに疑問を持ち始めた。
そんな矢先、国防総省がロケットの発射場を当初の予定より南に移動させることを決定した。そこは、敵対する共和国の属国であるリマダの国境付近という、緩衝地帯のギリギリの位置だった。将軍は政府からのその決定の真意を聞いた。それは、お荷物となっている宇宙軍を終わらせるため。そして、ロケットで敵国を挑発し、それを奪いに来るはずの敵軍の情報を掴むためであった。
リマダでのロケット打ち上げ計画を知った共和国は、それを阻止するためにシロツグの暗殺を命じた。一方、シロツグはリイクニへの欲望を押さえられなくなり、ある夜、力ずくで彼女を押し倒そうとするが失敗。翌朝、シロツグはリイクニに謝ろうするが、逆に謝ろれたことにショックを受けた。先に発射場に向かった仲間たちを港で送り出したシロツグとマティは、暗殺者の襲撃を受けた。シロツグは暗殺者から身を守るため、相手をナイフで刺し殺してしまった。
シロツグは再び宇宙飛行士としての意欲を失いつつあったが、将軍の「道は一本きりだ。大切なのは自分の立場を見つけることだ」という言葉を受け、自分の仕事をやり遂げることを決意した。シロツグはリイクニに出発の報告に向かうが、そこにはマナしかいなかった。マナに伝言を頼んで帰ろうとした時、駅でリイクニとすれ違うが、「行ってきます」とか言えなかった。
リマダの発射場でロケット打ち上げの準備が着々と進められていた時、将軍が駆け込み、発射時刻の大幅な繰上げを指示した。情報が漏れており、打ち上げ前に共和軍が到着してしまう恐れがあったからだ。だが、シロツグがロケットに搭乗し、発射準備が整った時、国境警備軍がやってきて、全員の退避命令が下された。もうじきここが戦場になるというのだ。
将軍が苦しみながら打ち上げの中止を決めるが、シロツグがそれに反対した。最後までやり遂げる、というシロツグの強い意思に皆が動かされ、将軍も秒読みの継続を指示した。その頃、発射場の周囲では王国軍と共和軍の戦車が、上空では戦闘機が激しい戦闘を繰り広げていた。そして、シロツグの乗ったロケットが打ち上げられた。敵も味方も闘いの手を止め、ロケットの美しい軌跡を見つめたのだった。