消火活動中に事故死した父に憧れ消防士になった兄弟が、
卑劣な連続放火殺人事件に挑む姿を描くドラマ。

バックドラフト

原題BACKDRAFT
製作年1991 年
製作国アメリカ
上映時間136 分
色彩カラー



解説
消防士を題材にしてヒットを飛ばした職業ヒーロー映画。監督はいくつもの大作映画をソツなくまとめてきたロン・ハワード。主人公の兄弟役には、ウィリアム・ボールドウィンとカート・ラッセル。それぞれ頼りない弟と、自己中の兄が役者のイメージとぴたりとはまり、好演を見せている。助演が豪華で、火を知り尽くす火災捜査官にロバート・デ・ニーロ、服役中の不気味な放火魔にドナルド・サザーランドが出演。控えめな出演ながらインパクトのある演技で映画を引き締めている。
この映画のドラマには大きな二つの柱があ。ひとつは、消防士兄弟の愛憎を中心にした青春であり、もうひとつは、“バックドラフト”現象を利用した放火殺人事件をめぐるサスペンスである。どちらが主でも従でもなく、二つのドラマが絶妙のバランスで語られ、かつ、相互にで作用しながら盛り上がっていく。消防士を題材にしたという目当たらしさに頼らず、語りの面白さと力強い演出で観せ、終りから始めながらぐいぐいと観客を引き込むエンターテインメント作品に仕上がっている。
ILMによる特撮に加え、本物の炎にもこだわったという火災シーンは迫力満点。まるで意思を持つかのように地や壁を這う炎を見事に表現し、炎に感情移入を促している。炎を生き物に見立てることで、事故や災害との命をかけた戦いをより鬼気迫るものにし、どちらかというと地味な印象を持ってしまう消防士の活躍を印象深いものにしている。とにかく、消防士が気持ちの良いくらいにかっこ良く描かれているので、男性の観客なら胸に熱いものがこみ上げること必死の作品だろう。



ストーリー
1971年シカゴ。ブライアン・マカフレイ少年にとって、消防局第17小隊に勤務する消防士の父は誇りだった。ある日、ブライアンは父の活躍を見るため、出動する父について火災現場に向かった。そして、消火作業中に悲劇は起こった。父は突然起こった爆発から同僚の隊員アドコックスを庇い、ブライアンの目の前で命を落としたのだった。
あれから20年後。消防学校を卒業したブライアンは、数年ぶりにシカゴに戻り、かつての恋人ジェニファーと再会した。ブライアンが戻ってきたのは、夢である消防士になるためだった。彼は、もっとも過酷な17小隊を避けて、別の小隊への配属を希望していたが、17小隊で隊長を務める兄のスティーブンの計らいで、彼の下への配属が決まった。ブライアンの父親代わりだったスティーブンは英雄的な活躍をする消防士である。だが、独善的な性格で他人との衝突が絶えず、現在は妻のヘレンと別居中だった。
ブライアンは出勤初日でいきなり出動することになった。現場で隊員が火に囲まれて、消火に苦戦を強いられている中、ブライアンは女性の助けを呼ぶ越えを耳にし、周囲を探した。彼は倒れていた女性を必死で担いで建物を脱出するが、彼が運び出したものはマネキンだった。鎮火後、スティーブンは現場を見に来たスウェイザック議員を見つけると、彼に食って掛かった。スウェイザックは選挙のために消防局の予算削減を推し進め、既にいくつかの招待が閉鎖されていた。今回の消火が苦戦したのも、救援が呼べないためだった。
マネキン救出事件は記者に事実を取り違えられて、ブライアンが本当に女性を救出したことになっていた。記事を目にしたスウェイザックは、消防士が呼ばれたパーティの席で、ブライアンに火災調査官ドン・リムゲイルの助手につくことをすすめた。誰でも飛びつきそうな花形の仕事だったが、スウェイザックの広告塔に利用されることを嫌ったブライアンは、その申し出を断わった。それは折りしも、犠牲者が玄関をドアを開けた瞬間に建物が爆発するという火災が連続して起こっている最中のことだった。
リムゲイルの助手の仕事を蹴りったブライアンだったが、その決意はすぐに翻されることになった。ある日の消火活動中、ブライアンとスティーブンは、部屋に残されている子供を救出するため、仲間がホースを持ってくるのを待たずに建物に飛び込んだ。だが、ブライアンはドアから吹き上がる炎に恐れをなし、立ちすくんでしまった。一方、スティーブンは一人でも果敢に炎に立ち向かい、無事に子供を救出した。スティーブンの命をかけた活躍を目の当たりにして自身を失ったブライアンは、小隊を辞めたのだった。
市からの任命を名目に、ブライアンはリムゲイルの助手になった。リムゲイルは気難しく、仕事にも厳しかったが、炎のことを誰よりも知り尽くす男だった。ブライアンを連れて、例の連続爆発火災の現場を調べたリムゲイルは、炎が低音で燃えていたことに気付いた。酸素不足になっていたところへ、一気に酸素が流れ込むことで爆発的に炎が広がる“バックドラフト”現象が起こっていたのだ。リムゲイルは、火災が放火であることを見抜き、手の込んだ手口から犯人が火を恐れる人物であるとも推理した。
ある夜、ブライアンはジェニファーを馴染みの消防署に案内し、消防士に対する思いを語った。ブライアンはジェニファーは息を潜めて消防車の上で愛し合いはじめたが、その時、署に出動要請が入った。ブライアンたちが降りる間もなく、消防車は走り出した。その頃、火災現場の高層ビル内では、まさにスティーブンの隊が消火活動を行なっているところだった。新人のフィルの教育のため、彼にドアを破る役を与えた。だが、スティーブンが目を離した隙に、フィルはドアの温度を確かめずにドアを破ってしまった。その瞬間、“バックドラフト”が起こった。
消防車に乗せられて現場までやってきたブライアンは、スティーブンの蒼白となった表情を見てすべてを悟った。全身に大やけどを負ったフィルは病院に運ばれた。フィルが事故に遭ったのは自分が現場にいなかったためだと責任を感じたブライアンは、犯人への怒りに燃えた。一方、リムゲイルは、自分に事件調査のハッパをかけてきたスウェイザックが、まだ公にされていない犠牲者の名前を口にしたことを妙に思った。リムゲイルからそのことを聞いたブライアンは、スウェイザックを疑がい、市役所で働いているジェニファーにスパイを頼んだ。
はじめはスパイ行為を拒んでいたジェニファーだったが、ある夜、ブライアンを呼び出し、スウェイザックのもとからくすねてきた資料を渡した。資料は1989年の予算案であり、消防局の予算削減ありきの数字が並んでいた。金儲けのため、消防局の跡地に市民センターを建設するためのスウェイザックの企みだったが、この予算をでっち上げた数字に詳しい人物がいるはずだった。資料に添えられていた写真には、スウェイザックと三人の会計士たちが一緒に映っていた。三人は今回の火災の犠牲者だった。
ブライアンとリムゲイルは詳しい事情を聞くため、スウェイザックの自宅を訪ねた。スウェイザック邸の玄関のドアは鍵がかかっておらず、中に入るとスウェイザックが倒れていた。次の瞬間、ブライアンに覆面の男が襲い掛かってきた。三人の会計士に続き、スウェイザックに手をかけようとした放火の犯人に違いなかった。ブライアンは犯人ともみ合いになり、相手の肩を既に火を噴いていたコンセントに押し付けた。犯人がひるんだすきに、ブライアンとリムゲイルはスウェイザックを助け起し、スウェイザック邸から脱出。スウェイザック邸は爆発した。
スウェイザック邸での事件で大怪我を負ったリムゲイルに代わり、ブライアンは捜査を続けた。そして、服役中の放火魔ロナルド・バートンを訪ね、犯人像のヒントを求めた。ロナルドは、犯人が誰よりも火を知り尽くし、同時に誰よりも火を憎む者であることと、火元に使われたのが、燃料に利用される“トリクティクロレート”がであることをブライアンに気付かせた。そして、「犯人は意外と近くにいる」ことを示唆した。ブライアンは、スティーブンが入り浸っている父の船に“トリクティクロレート”があったことを思い出した。
ブライアンはスティーブンを疑い、彼を追及することを決意。だが、いざ本人を目の前にスすると言い出せなかった。ブライアンは消防局に向かい、スティーブンのロッカーをこじ開けて証拠を探すが、その時、シャワー室にいたアドコックスの背中が見えた。肩にはコンセントの形をした火傷の跡があった。ブライアンを追って局にやってきたスティーブンも薄々アドコックスが真犯人であることに気付いていた。スティーブンが隊長として部下であるアドコックスと話をつけようとした時、出動命令が入った。アドコックスと共に出動したスティーブンが心配になったブライアンは消防車に飛び乗った。
ブライアンが火災現場の工場に遅れて到着した時、屋上では燃え盛る炎の中で、スティーブンとアドコックスが言い争っているところだった。アドコックスは自分が放火犯であることを認め、消防局の予算を削ろうとしたスウェイザックと彼に秘密裏で雇われた会計士が許せなかったと告白。スティーブンとアドコックスが互いに斧を握り決着をつけようとしたその時、熱で脆くなっいた足場が崩壊した。スティーブンは一方の腕で足場に捕まり、もう一方の腕でアドコックスを引き上げようととしたが、もはや限界だった。スティーブンはアドコックス一人を見殺しに出来ず、足場に捕まっていた方の腕を放した。
アドコックスは地面に叩きつけられたが、スティーブンは別の足場の上に落ちた。ブライアンはスティーブンのもとに駆けつけ、救援を待った。仲間はすぐにやってくるが、炎の勢いに押され、思わずホースを放してしまった。ブライアンは意を決すると、スティーブンの制止を振り払って、炎の中に飛び込んでいった。ホースを掴んだブライアンは、放水で仲間を援護しながらスティーブンを救出。だが、ブライアンの成長を見届けたスティーブンは救急車の中で息を引き取った。
ブライアンはスティーブンの遺言を守り、アドコックスのことは誰にも話さなかった。だが、スウェイザックのことは許さず、ジェニファーの告発した例の予算案や写真を報道陣の前で突きつけることで、彼を辞任に追いやった。そして、ブライアンは父や兄の遺志を継ぎ、消防士に復帰したのだった。



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