恋をした思春期の男の子と女の子が、
周囲の教師や親を巻き込んで起こす騒動を描く青春ロマンス。
小さな恋のメロディ
原題 | MELODY |
製作年 | 1971
年
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製作国 | イギリス |
上映時間 | 103
分
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色彩 | カラー |
相思相愛となった十一歳の男の子と女の子を中心に、思春期の純粋な少年少女たちの姿を描いた青春映画。主人公ダニエル役は『オリバー!』でオリバーを演じていたマーク・レスター。彼の親友役は、同じく『オリバー!』で親友役だったジャック・ワイルド。レスターと息のピッタリ合った芝居を見せる。ダニエルが憧れる“メロディ”役には新人のトレイシー・ハイド。美少女ぶりが日本でもかなりの人気だったそうが、その後、80年代に2本の映画に出演したきり。脚本はこれが映画デビューとなるアラン・パーカーによるもの。
思春期の恋愛を描いた映画で成功した作品は少ないように思える。それは思春期でない大人が創作した時点で、どうあっても話が嘘になってしまうからである。本作はそのハンデを、子供の世界と大人の世界の対比するこで克服しているようだ。子供の世界を描くために、子供らしいエピソードを積み上げると同時に、子供たちの自然な表情を捉えることに成功している。群集の中で子供たちの顔をアップで抜いていくシーンが何度かあるが、その時の子供たちのいきいきとしていることといったら。
一方、大人の世界の描き方は、ややカリカチュアされているようだ。子供を痛めつけることに生きがいを感じている教師、慈善活動に優越感を見出している母、といった具合だが、子供の目線ならではの鋭い描写が光っている。ダニエル曰く「退屈な大人」たちを徹底して退屈に描くことで、メロディとダニエルの恋の純粋さを一層に際立たせているのである。
メロディとダニエルと手漕ぎトロッコで駆け落ちするラストシーンや、ビージーズのキャッチーな挿入歌の流れるイメージ的なシーンばかりが語り草となっているが、全編を通して映像に趣向凝らされていて、芸術性が高いものであることも見逃せない。吹き抜けのある校舎、子供たちの秘密の遊び場となっている廃線路や墓地、ブレザーの制服の子供たちのいる風景が、光と影と構図に拘った映像により美しく撮られている。このいかにもイギリス的な美意識の貫かれた映像が、子供たちの純粋さに気高さを加えている。
オンタイムで観た観客はロマンスとして思い入れの強い作品のようだが、そうでない観客にとっては、ロマンスというより、大人と子供の対立を描いた反骨的な青春映画といった印象が強い。ここでは、メロディとダニエルの恋も大人への反抗の象徴なのである。また、意外とメッセージ性もあり、「幸せになることがどうしてこんなに難しいの」といったメロディの問いに、思わず大人として汚れてしまったことを反省させられる場面もあったりする。しかし、70年代にしては刺激がなさすぎる内容だったためか、日本以外ではヒットしなかったそうだ。
中流の家庭に暮す小学生の男の子ダニエル・ラティマー。両親と三人暮らし。母は過保護で、父は子供に無関心だった。おとなしい性格のダニエルだったが、両親への不満は同年代の男の子同様に持っていて、父の新聞に火をつけるなどのイタズラをしたりしていた。一方、ダニエルと同じ学校に通う女の子メロディ・パーキンスは、母と祖母と三人で暮していた。父は訳あって別居中で、メロディがパブに入り浸る父から集金をしていた。ダニエルたちの学校はキリスト教系の厳格な校風で、男女の授業は別の教室で行なわれた。だが、子供たちにはとっては関係なく、男の子たちは飲酒や喫煙が当たり前、そして、女の子たちの関心はもっぱらデートやハンサムなアイドルのことだった。
ある日、ダニエルは線路脇の空き地で、同じクラスのダッズたちが爆弾作りをしているところに出くわした。どうして良いかわからず、立ち尽くしていたダニエルに声をかけたのは、同じ少年団に入っている不良っぽい男の子トム・オーンショーだった。爆弾作りの仲間に入れてもらることになったダニエルは、オーションーの誘いで放課後に寄り道をした。今度は、ダニエルの方からオーンショーを映画に誘うが、答えは芳しくなかった。実はオーンショーの家は貧しく、病気の祖父がいたのだ。ダニエルとオーンショーは性格も家庭環境も違っていたが、なぜか気が合い、友達付き合いは続いていった。
ある日、ダニエルは友達と一緒に、女子のバレエの授業をのぞき見た。ダニエルは教室で優雅に踊るメロディに釘付けになった。バレエの先生に見つかったダニエルたちは教室に入れられ、女子と一緒に踊らさせるという恥をかかされることに。だが、その時から、ダニエルの頭はメロディのことでいっぱいになった。放課後、ダニエルはメロディのあとをこっそりつけ、墓地までやってきた。メロディの友達がアイドルのポスターにキスをしたその時、ダニエルはメロディたちに見つかってしまった。だが、ダニエルは何も言えずにその場から逃げるように去っていったのだった。
それから数日後、ダニエルとメロディは偶然、音楽室で二人きりになった。メロディがリコーダーを吹き始めると、ダニエルはチェロで彼女の奏でる旋律を追いかけた。ダニエルはメロディ本人に恋心を打ち明けらずにいたが、それをを隠さず、積極的に彼女に近付こうと試みた。食堂でメロディの隣りに座ろうとしたが、先客がいたために失敗。親と先生の主催したダンスパーティでは、オーンショーをダシに使って、メロディと踊ろうとしたが、またしても失敗した。
ダニエルとオーンショーはラテン語の授業中、予習を怠ったことを理由に担任のディックスに呼び出された。ダニエルとオーンショーはズボンにタオルを仕込んで、ディックスの体罰をやり過ごそうとした。だが、ダニエルはタオルを発見されてしまい、尻にきつい折檻を受けることに。泣きべそをかきながら職員室を出ると、そこにメロディが待っていた。見つめあうダニエルとメロディ。焦ったオーンショーはダニエルを遊びに誘うが、その声はもうダニエルに届かなかった。
ダニエルはオーンショーを放ったらかしにして、メロディと手をつないで一緒に帰った。二人は墓地で語り合った。メロディは周囲の噂でダニエルが自分を好きなことを知っていたが、まんざらでもなかった。早速、メロディはダニエルを家に招き、両親に紹介した。翌日、ダニエルとメロディは無断で学校を休み、遊園地と海にデートに出かけた。浜辺で砂遊びをしている最中、ダニエルはメロディにプロポーズをした。メロディは「いつかね」と答えた。だが、ダニエルは、退屈な大人になる前に結婚したいと考えていた。
翌日、ダニエルとメロディは校長室呼び出され、厳重に注意を受けた。ダニエルはメロディと結婚することを宣言するが、校長は馬鹿にして笑った。おとなしいダニエルもこのときばかりは校長に食ってかかった。教室に入ったダニエルは、オーンショーたちにメロディとのことをはやしたてられた。しばらく黙っていたダニエルだったが、突然、オーンショーに飛びかかり、取っ組み合いの喧嘩に。先生に引き離されたオーンショーは「悪気はなかった」とダニエルに謝った。メロディは両親と祖母に結婚について相談した。だか、親たちは「まだ早い」と言うばかりで、メロディが幸せになることについて助けてくれないのだった。
校長はダニエルの母から緊急の電話を受けた。ダニエルが駆け落ちしてしまったというのだ。校長が教室の様子を見に行くと、英語の授業のはずが教室にはダッズ一人しかいなかった。校長はダッズを問詰め、クラスメイトたちと線路脇のアーチにいることを知った。先生と親たちは線路に急いだ。そのころ、アーチでは、オーンショーを神父役に、ダニエルとメロディが結婚式を挙げているところだった。
ダニエルとメロディが指輪の交換をしようとしたその時、ダッズが飛びこんで来て、先生たちがここに来ることを告げた。ダニエルとメロディはオーンショーの導きで線路に向けて走り出した。クラスメイトたちは、やってきた先生と親たちと戦い、ダニエルたちの逃走を助けた。ダッズが完成させた爆弾で威嚇すると、先生と親たちは逃げていった。線路にやつてきたダニエルとメロディは、最後まで追ってきたディックスをオーンショーに任せると、手漕ぎのトロッコに飛び乗った。ダニエルとメロディの漕ぐトロッコは、線路の上を勢い良く滑走し、新しい町へと旅立っていったのだった。