無実の妻殺害容疑をかけられた医師の逃亡劇を描くサスペンス・アクション。
60年代の人気テレビ・シリーズの映画化。
逃亡者
原題 | THE FUGITIVE |
製作年 | 1993
年
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製作国 | アメリカ |
上映時間 | 130
分
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色彩 | カラー |
ロイ・ハギンズの往年のテレビ・シリーズをハリソン・フォード主演で映画化(同じ脚本家によるシリーズ『マーヴェリック』も翌年に映画化された)したサスペンス・アクション。妻殺しを着せられ、死刑を宣告された医師の逃亡を描く。髯を剃り髪を染めての変装。安アパートへの潜伏。執拗に追いかけてくる捜査官から逃走。逃亡劇の醍醐味が詰め込まれた作品だ。
主人公の医師による真犯人探しのミステリーが物語の軸になっているが、その展開や結末は意外とあっさりとしている。ミステリーよりも、追う者と追われる者の息詰まる戦いに焦点があてられていているようだ。真犯人を追う無実の逃亡者と逃亡者を追う連邦保安官という構図により、逃亡者と連邦保安官の姿が、どちらに偏るでもなく交互に描かれていく。二人の立場は対照的だが、真実の追究という執念は共通。立場をこえて、共感により理解しあう男と男の熱いドラマがいちばんの見どころ。また、逃亡者と連邦保安官の追跡シーンも随所に用意され、アクションも楽しめるエンターテインメントに仕上がっている。前半の護送車からの脱出や、ダムからのダイブなどはなかなかの迫力。
共演は、アンドリュー・デイビス監督作の常連であるトミー・リー・ジョーンズ。フォード扮するキンブル医師を追うジェラード連邦保安官を演じる。嬉々として容疑者を追う様が猟犬じみていると周囲にからかわれながらも、部下からのあつい信頼と尊敬を得ているという理想の上司。颯爽とした魅力により、おどおどと逃げ回っているフォードよりも数段も映える役となった。ジョーンズは、キャリアのわりにヒットに恵まれず、一般的に『沈黙の戦艦』の悪役ぐらいでしか認知されていなかったが、本作と『メン・イン・ブラック』への出演により、日本でも人気者になった。ジェラード連邦保安官役としては、『追跡者』でスピンオフを果たしている。
医師のリチャード・キンブルは最愛の妻を殺された。それはある夜のことだった。製薬社“デブリン・マクレガー”主催の小児病基金パーティから帰宅したキンブルは、妻ヘレンのいた二階の寝室に侵入者がいることに気付かなかった。キンブルは、侵入者と争った際に、相手の片腕が義手であることを見ていた。キンブルは警察で犯人の特徴を話した。だが、警察は彼を犯人と疑っていた。拳銃にキンブルの指紋がついていたこと、殺された妻にキンブルの皮膚組織が付着していたこと、キンブルが妻に生命保険をかけていたこと。それらが決め手となり、キンブルは逮捕された。そして、裁判の結果、彼は死刑を宣告された。だが、キンブルは護送中に思いがけない事件に巻き込まれ、逃亡生活を送ることになった。護送車に同乗していた囚人の一人が急病を装って犯人を起こしたのだ。混乱の中、運転手が撃たれ、護送車は崖下に転落した。護送車が横転したのは、鉄道の線路の上で、今まさに貨物列車が迫っているところだった。キンブルは怪我を負った看守を担いで、列車に衝突される車から間一髪で飛び降りた。翌朝、護送車の事故現場に、連邦保安官のジェラードが部下のリッグスらを伴なってやってきた。地元の警察は囚人が事故に巻き込まれて死亡した主張したが、ジェラードは、生存者の看守のあやふやな証言から、キンブルは生きていると確信していた。捜査を引き継いだジェラードは部下に命じて非常線を張った。その頃、キンブルは、事故現場付近の病院に現われ、自らの怪我を処置した。たくわえていた髯を剃り、病院の医師に紛れたキンブルは、救急車を奪って逃走した。救急車が非常線を越えたという報せを受け、ジェラードはヘリでの追跡を開始。キンブルの乗った救急車がトンネルに入ったところで、出口をヘリで塞いだ。ところが、救急車にキンブルの姿はなかった。彼は排水溝にもぐりこんで逃げたのだった。キンブルを追って排水溝に入ったジェラードは、足を滑らせた拍子に、拳銃を落としてしまった。その拳銃を拾い上げたのキンブルだった。彼はジェラードに拳銃を突きつけ、「私はやっていない」と主張。それに対してジェラードは「私にはどうでもいいいことだ」と応えた。排水溝をさらに奥へと進んだキンブルは、出口の光を見つけるが、外はダムだった。ジェラードに追い詰められたキンブルは、隙を突いてダムの底へ飛び込んだ。誰もがキンブルが死んだと思っていたが、ジェラードはキンブルの生存の可能性を捨てなかった。実際、キンブルは死んでいなかった。彼は自宅のあるシカゴに戻り、弁護士に電話で助けを求めた。その電話を探知し、発信場所を突き止めたジェラードは、キンブルがわざわざ地元に戻ってきたことに疑問をもった。弁護士に援助を断わられたキンブルが、次に助けを求めたのは、親友の医師チャールズ・ニコルズだった。チャールズは、キンブルが突然、目の前に現われたにも関わらず、彼に協力的だった。彼は、キンブルに金を貸したばかりでなく、医師を中心に聞き込み始めていたジェラードにも、捜査に協力できないことを明言した。キンブルはチャールズの援助を受けてアパートを借り、真犯人である義手の男を探し続けた。掃除夫を騙って病院に潜入したキンブルは、コンピュータのデータベースで患者を検索し、真犯人の義手の特徴から容疑者を五名に絞り込んだ。キンブルは容疑者の一人ひとりと接触を試み、それが真犯人であるかどうかを確認していった。そして、刑務所に収監されていた義手の男の一人面会した時のこと。その囚人は真犯人ではなかったが、キンブルは、データベースの履歴から彼の後を追っていたジェラードと建物の階段ですれ違った。ジェラードはすぐに気がつき、建物の閉鎖を叫んだ。だが、キンブルはジェラードの追跡をまき、閉鎖される寸前のドアから脱出。ジェラードはあと一歩のところで、キンブルを取り逃がしてしまうのだった。次にキンブルが現われたのは、五人の容疑者の一人である“デブリン・マクレガー”の警備員フレデリック・サイクスの自宅だった。キンブルはサイクスの机の中の写真を物色し、彼が、新薬“RDU90”の実験観察の監督者であるレンツ医師とかかわりがあったことを掴んだ。肝臓への副作用があることを警告していたキンブルを抹殺するため、レンツがサイクスを雇ったことにとに間違いがないようだった。キンブルはその場でジェラードに電話をかけ、真犯人を見つけたことを知らせた。そして、ジェラードをサイクスの家に越させるため、電話を切らずに立ち去った。続いて、キンブルは、病院のルーズベルトに協力を頼み、新薬の病理サンプルの再検証を行なった。その結果、キンブルが提出したはずの異常なサンプルはすべて正常なものにすりかえられていた。だが、レンツが記したとされるサインの日付と同日、彼は事故で死亡していた。ジェラードはサイクスの自宅で本人に事情を尋ねるが、彼にはアリバイがあるようだった。リッグスらの調査により、キンブルが関わりのないと思われていたサイクスに一度だけ電話をかけていたことが通話記録から明らかになった。一方、事情聴取を終えたサイクスは行方を暗ましてしまった。それらのことが意味するもに気付いたジェラードは、部下たちを率いてある場所に急行した。ジェラードたちの向かったホテルでは、チャールズが講演が行なわれているところだった。チャールズが新薬“RDU90”を発表しようとしたその時、会場に思いつめた表情のキンブルが現われた。キンブルはチャールズを指し、新薬のためにレンツや自分を殺そうとした張本人であると叫んだ。あのパーティの夜、チャールズはキンブルの目を盗み、彼の自動車電話からサイクスに指示を出していたのだ。チャールズは講演を中断し、キンブルを会場の外へ連れ出した。争いになったキンブルとチャールズは屋上へ。そこには連邦警察のヘリが待ち受け、狙撃シュが逃亡者であるキンブルに狙いを定めていた。屋上に駆けつけたジェラードはキンブルの無実を信じ、ヘリを下ろすよう命令。一方、キンブルとチャールズは格闘の末にエレベータシャフトの中に転落した。ジェラードはエレベータの停まった階に急ぎ、そこでチャールズと争いを続けていたキンブルの説得にあたった。ジェラードはキンブルの投降させることに集中するあまり、背後にチャールズが迫っていることに気付かなかった。チャールズがジェラードを撃とうとしたその時だった。キンブルがチャールズに一撃を食らわせ、ジェラードを庇った。キンブルはジェラードを信じ、大人しく投降した。殺到したマスコミの間をくぐり、車に乗せられたキンブルは、すぐに手錠を外してくれたジェラードが、はじめから自分のこと信じ、気遣ってくれていたことに気付いた。そのことを指摘されたジェラードは、照れくさそうに笑うだけだった。