自分を懲役刑から救わなかった弁護士への復讐に燃えるレイプ犯。
彼に執拗に付きまとわれる弁護士一家の恐怖を描くスリラー。
ケープ・フィアー
原題 | CAPE FEAR |
製作年 | 1991
年
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製作国 | アメリカ |
上映時間 | 128
分
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色彩 | カラー |
1962年製作『恐怖の岬』のリメイク作。スピルバーグが切望していた企画をスコセッシ監督で実現したもの。主人公の弁護士には、スコセッシがオムニバス『ニューヨーク・ストーリー』の第一話で起用したニック・ノルティを再登用。本作のスリラーの要である犯人役には、『タクシードライバー』、『キング・オブ・コメディ』といったストーカー的な題材の作品でスコセッシとコンビを組んできたデ・ニーロが迎えられた。オリジナルで弁護士を演じたグレゴリー・ペックと犯人を演じたロバート・ミッチャムも出演している。
本作に限らず、傑作とされる作品のリメイクに関しては、その必要性をめぐって賛否が必ずといってあるもの。しかし、本作に限っては、誰もが人間関係に多少の不安感を抱いている現代社会という背景を踏まえれば、作られるべきして作られた必然のリメイクと言ってもいいかもしれない。犯罪者からの逆恨みという状況は、1962年当時には、幽霊やモンスターと同程度のリアリティの恐怖だっただろう。しかし、現代では、自分の身には滅多なことでは起こらないと考えていても、似たような事件が新聞やテレビをにぎわしている状況を考えれば、より真に迫った恐怖となって迫ってくる。
リメイクに関しては、その必要性の他に、オリジナルを貶める可能性についても議論されることがある。オリジナルとリメイクのどちらが良いかという判断は、最終的には観客の好みの問題となってくるが、少なくとも本作は、オリジナルを貶めるような貧弱なリメイクではない。スコセッシの独自の味付けで、オリジナルよりやや派手めな印象ではある。しかし、ここに描かれる極めて現代的な恐怖は、リメイクという前提を抜きに今の観客の興味を強くひきつけるもので、決して知名度の高くなかったオリジナル『恐怖の岬』への再評価にもつながった。
本作においてデ・ニーロは、『タクシードライバー』、『キング・オブ・コメディ』とも異なる狂気を見せている。刑務所暮らしの慰めのため、宗教や哲学に必要以上に傾倒し、ついに狂気の向こう側に突き抜けてしまったレイプ犯ケイディ。彼がニーチェについて言及する場面があるが、“超人”の解釈のひとつとも取れるような超越した人物として描かれているところが興味深い。犯人が明確な目的をもっているところは、他のストーカー映画と決定的に異なるところだろう。デ・ニーロの芝居が暴走気味なところは、ミッチャムの芝居との比較で批判されるところである。デ・ニーロの芝居は、復讐という目的を心と体に刻みつけた結果、人間がどうなるかを、彼なりのアプローチで表現した結果だろう。
デ・ニーロの芝居の凄みに尽きる映画ではあるが、弁護士の娘ダニーを演じたジュリエット・ルイスの芝居も忘れ難い。十五歳の少女の危うさを、見ているほうがヒヤヒヤするほどの屈託のなさと、そこから透けて見える妖艶さで表現したのは斬新で、デ・ニーロとは別の意味でキレている。物語の中盤、ケイディとダニーが学校の講堂で出会う場面では、ジュリエットがそのはにかんだ表情でデ・ニーロを食わんばかりの名演を見せる。ケープ・フィアー(恐怖の岬)に舞台を移した壮絶なクライマックスも悪くはないが、この講堂の場面こそ本作の頂点である。
アトランタで刑期を終えた服役囚マックス・ケイディが出所した。全身に警句を刺青したその男は、ある目的のためにニューエセックスにやってきた。
弁護士のサム・ボーデンは、デザイナーの妻レイと十五歳になる娘ダニーと平穏に暮していた。ある日、家族そろって映画を観に行いったサムは、前の席に周囲の迷惑も考えずに葉巻を吸いながら大笑いしている男を見つけた。サムはまだその男が自分の因果のある男ケイディであることには気付いていなかった。
サムは法律事務所の同僚のローリーと密かに不倫をしていた。ローリーと一緒にスポーツクラブで汗を流した帰り、サムは駐車場で先日の映画館の男の待ち伏せ受けた。ケイディはサムが自分のことを覚えていないことを知ると正体を明かした。ケイディはレイプで暴行の罪で訴えられた時にサムを弁護につけたが、裁判で負け、十四年も服役することになったのだった。ケイディはサムとの別れる際に「無くしたものは戻らない」と呟いた。サムはケイディのその言葉がいつまでも心にひっかかった。
その夜、何気なく寝室から庭を見渡したレイは、塀の上に腰掛けるケイディらしき男の影を発見した。レイに起こされたサムは、ケイディを追い出そうと庭に飛び出すが、既に男の姿はなかった。
数日後、サムは町中でケイディと出くわした。サムはケイディが付きまとっていると断定し、彼を激しく非難した。それでも惚け続けるケイディに痺れを切らしたサムは、金で解決しようと考え、金額の交渉に出た。だが、その時、高級車に乗っていたケイディは金に困っている様子はなく、サムの提示した金額についても、十四年の賠償に見合わないことを理由に苦笑するだけだった。
事務所で仕事をしていたサムのもとに、自宅のレイからの緊急の電話がかかってきた。愛犬のベンが何者かに毒殺されたのだ。ケイディの仕業だと考えたサムは警察に行き、エルガート警部補に相談した。エルガートの調査により、ケイディが多額の遺産を相続していることが分かった。金が欲しいのではないとしたら、いったい何が目的なのか?
そんな時、レイプ事件が発生した。容疑者はケイディだった。早速、サムは被害者の病室を訪ねるが、ベッドに痛々しい姿で横たわっていたのはローリーだった。サムはローリーに、ケイディを追い詰めるためにすべてを話しくれるよう頼んだ。だが、これてまで仕事でケイプ事件を何件も扱ってきたローリーは、同僚の前で恥を晒すことになるのを怖れていた。エルガートは、起こっていない事件については警察が動く出来ないことを説明した上で、オトリを立てる方法もあることをサムに仄めかした。
今回のような曖昧なケースについては警察が役に立たないことを知ったサムは、友人の探偵カーセクにケイディの備考を依頼した。ローリーはケディを訴えずに町を離れることになった。サムは寝室から電話でローリーに別れを告げるが、それをレイに見つかってしまった。既にローリーの存在に勘付いていたレイはサムをなじった。家族の周りをうろつく男の存在に加え、両親の喧嘩を目の当たりにしてしまったダニーは、不安と孤独を募らせていった。
カーセクはケイディの尾行を続けていたが、相手に気付かれてしまった。ケイディが一筋縄でいかない男であることを身をもって知ったカーセクは、男たちを雇って痛めつけることをサムに提案。だが、サムは弁護士という立場として、カーセクの提案には乗れなかった。
ある日、ダニーの学校の教師を名乗る男から、明日の演劇の授業について電話がかかってきた。ダニーは、自分の悩みに理解を示してくれる教師の話に引き込まれていくが、その正体はケイディだった。
翌日、指定された教室にダニーが行くと、そこにはケイディが一人で待っていた。獄中で本を読みふけっていたケイディは、その博学でダニーの心の隙間に入り込んだ。ケイディにキスをされたことで我に返ったダニーは、恐ろしくなって学校で彼と会ったことを両親に打ち明けた。怒ったサムは、カーセクに先日の提案通りに男たちを雇う手筈を整えてくれるよう頼んだ。
その夜、サムは事前にケイディに最後の警告をしに行った。だが、ケイディが町を出て行く気配がなかったため、計画通り彼に男たちが襲い掛かった。一度は鉄パイプで殴り倒されたケイディだったが、獄中で鍛え上げられた体の強靭で、再び立ち上がると男たちを返り討ちにしてしまった。
さらに、こうなることを予想していたケイディは、警告に来たサムとのやり取りをテープに録音していた。そのテープが決定的となり、サムは、ヘラーという弁護人をつけたケイディから脅迫と暴行容疑で訴えられることになった。サムは弁護士資格剥奪の決定が査問会で決められるまでの間、ケイディの500メートル内に近付くことを禁じられてしまった。
逆上したサムはカーセクのオフィスに飛び込み、「銃をくれ」と叫んだ。カーセクはサムを落ち着かせ、ケイディを自宅におびき寄せ、騙し撃ちにすることを提案した。サムは査問会に出席するために空港でレイとダニーと別れるが、誰にも見られないように自宅に戻った。自分が自宅にいないとケイディに思せるためだ。そして、サムとカーセクは、ケイディが不法侵入してくるのを息を殺して待ちつづけた。
二日目の夜、カーセクはある一枚の窓を鍵が外れているのに気付き、戸締りをした。一安心したカーセクは、サムが雇っている家政婦に話し掛けた。だが、その家政婦はケイディの変装した姿だった。静寂を銃声が破った。サムとレイとダニーが恐るそおる台所に向かうと、そこにはカーセクの死体が血だまりの中転がっていて、ケイディの姿は既になかった。
翌日、サムはカーセクとダニーを連れて逃げた。自分をカーセク殺害の容疑をかけるであろうエルガートにだけは逃げることを告げた。サムたちの行き先はケープ・フィアーというリゾート地で、そこには彼らのハウス・ボートがあった。サムは、ここまでくればケイディも追ってこれまいと思っていた。まさか、ケイディが車のシャーシ捕まり、一緒にケープ・フィアーにまでついてきているとは思わなかった。
サムはハウス・ボートを川の真ん中に停留させ、レイとダニーと三人だけでしばらく生活することにした。しばらくして、ボートを嵐が襲った。錨の様子を見に行ったサムは、デッキで待っていたケイディに羽交い絞めにされた。サムを縛り上げたケイディは、ハウスに入り、レイとダニーに自分の受けてきた苦しみを訴えた。ケイディは、自分の人生を奪ったサムの復讐として、彼の目の前でレイを犯そうとした。レイは涙ながらにケイディへの同情を示し、サムとダニーだけを許して欲しいと懇願した。ケイディがひるんだ隙に、ダニーは密かに手にしていたオイルを噴射した。手にしていた葉巻に引火し、火だるまになったケイディは川へ飛び込んだ。
サムたちは無事だったが、ケイディに錨のロープを切られたボートは荒れ狂う川に翻弄されていた。その時、死んだと思われたケイディが川からボートに上がってきて、サムに銃を突きつけた。ケイディは、サムが十四年前の事件の被害者の調書を提出していなかったことを告白させると、弁護士としての責任を果たさなかったと一方的に決め付けた。
ケイディがサムを私刑しようとしたその時、渦に巻き込まれたボートが大きく回転した。ケイディがバランスを崩した隙をついて、レイとダニーは川へ飛び込んだ。サムとケイディは銃の奪い合いになった。そのうち、ボートは岩に衝突して大破。最後に銃を手にしたのはサムだった。だが、ケイディはボートの破片と一緒に川の底へ引きずり込まれていったため、サムが銃の引き金を引くことはなかった。サムは濁流の中から生還したレイとダニーと呆然と顔を見合わた。
そして、その日以降、家族がケイディのことを話すことはなかった。
キャスト
マックス・ケイディ
| ロバート・デ・ニーロ
Robert De Niro
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サム・ボーデン
| ニック・ノルティ
Nick Nolte
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レイ・ボーデン
| ジェシカ・ラング
Jessica Lange
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クロード・カーセク
| ジョー・ドン・ベイカー
Joe Don Baker
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エルガート警部補
| ロバート・ミッチャム
Robert Mitchum
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ダニー・ボーデン
| ジュリエット・ルイ
Juliette Lewis
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リー・ヘラー
| グレゴリー・ペック
Gregory Peck
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判事
| マーティン・バルサム
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ローリー・デイビス
| イレーナ・ダグラス
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トム・ブロードベント
| フレッド・ダルトン・トンプソン
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スタッフ
キャスティング
| エレン・ルイス
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衣装デザイン
| リタ・ライアック
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編集
| セルマ・スクーンメイカー
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美術
| ヘンリー・バムステッド
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音楽
| バーナード・ハーマン
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音楽編曲
| エルマー・バーンスタイン
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撮影
| フレディ・フランシス
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タイトル・デザイン
| ソウル・バス
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製作総指揮
| キャスリーン・ケネディ
フランク・マーシャル
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原作小説
| ジョン・D・マクドナルド「ケープ・フィアー 恐怖の岬」
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オリジナル脚本
| ジェームズ・R・ウェッブ
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脚本
Screenplay by
| ウェズリー・ストリック
Wesley Strick
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製作
Produced by
| バーバラ・デ・フィーナ
Barbara De Fina
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監督
Directed by
| マーティン・スコセッシ
Martin Scorsese
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プロダクション
提供
presents
| アンブリン・エンターテインメント
Amblin Entertainment
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協力
in assosiation with
| カッパ・フィルムズ
Cappa Films
トライベッカ・プロダクションズ
Tribeca Productions
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