強盗に撃ち殺されて幽霊となった男が最愛の恋人を
悪人の魔の手から守ろうとする姿を描くファンタジー・ロマンス。

ゴースト
ニューヨークの幻

製作年1990 年
製作国アメリカ
上映時間128 分
色彩カラー



解説
『ケンタッキー・フライド・ムービー』や「裸の銃を持つ男」シリーズなどを手がけたこと知られるコメディ集団“ZAZ”の一員、ジェリー・ザッカーの監督作としては、はじめてのロマンスもの。「あの“ZAZ”が」と思えば冗談に思えてしまうほど、ちゃんと作ってある作品で、一般の課客にも良質のラブ・ファンタジーとして受け入れられ、ヒットした。
脚本はオスカーを取ったとは思えないほど大味ではあるが、ニクいぼとに感動のツボを心得た演出で見せていく。たとえば、ロマンスの名シーンとして記憶される、ろくろを用いたラブシーン。一歩間違えば下品になりかねないが、「アンチェインド・メロディ」という選曲によって、かろうじて美しいシーンとなっている。また、クライマックスでは、「アンチェインド・メロディ」を再現し、ただのダンスシーンを官能的なシーンとして見せている。エンターテインメントを極めた“ZAZ”だけあって、このようなテクニックは朝飯前だが、その他にも様々な仕掛けでトコトン楽しませてくれる。
作品の軸であるロマンスとファンタジーの融合を、SFXをほとんど使わずに成し遂げていることが驚きだ。また、ファンタジー・ロマンス一辺倒ではなく、得意のコメディ要素や、さらにはサスペンスやホラーの要素の間をめまぐるしく行き来しているので、一瞬も飽きさせない。お涙頂戴のロマンスと見られがちだが、ロマンスである前に観客へのサービス満点のエンターテインメントなのだ。本作は、馬鹿ばかしいコメディを撮ってきた“ZAZ”の「こんな映画も作れるんだぜ」というメッセージであるかのようで、後に「裸の銃を持つ男」シリーズで本作をセルフパロディしてしまう余裕からも、それが窺える。
本作のヒットにより、日本人にも親しみやすい黒い髪、黒い瞳のデミ・ムーアが一躍大人気に。決して美人とは言えないが、泣き顔の美しさは神がかり的。片目からぽろりと一筋ずつ涙を流す技術も、スゴイの一言だ。自称霊媒師を演じたゴールドバーグの軽妙な演技も光り、三枚目として若い男女の純愛を引き立てる。ムーアとゴールドバーグが認知も上げた一方で、主人公の幽霊を演じたスウェイジが一番影が薄かったりする。しかし、主演が一歩引いたところが、本作を男女共に愛される作品した所以なのかもしれない。



ストーリー
恋人同士の銀行員のサムと陶芸家のモリーは、新しい家で同棲生活を開始し、幸せな日々を送っていた。そんなある日のこと、サムは銀行で顧客の口座をチェックしていたところ、預金の額が多すぎる奇妙な口座を発見。サムは調査のため、リタ・ミラー名義のその口座のロックし、他の者に操作できなくした。
サムとモリーがデートで芝居を観に行った帰り道、モリーはサムに二人の結婚の話をしはじめた。サムが返答に臆していたその時、二人の前に強盗が現われた。サムと強盗がもみ合いになるうちに強盗の手にしていた銃が火を噴いた。サムは逃げていく強盗を走って追いかけるが、見失ってしまった。モリーのもとへ戻ってきたサムは、そこに繰り広げられている光景に我が目を疑った。モリーが血だらけのサムの体を抱いて、泣いているのだ。モリーは側に立っているサムの姿に気付いていない様子。サムは自分が死んで、魂が抜けてしまったことに気付いた。サムの体を上空から光が包んだ。お迎えのサインだったが、サムはそれを無視して、自分の遺体と共に病院に向かったモリーを追った。
サムの死後、モリーはサムの親友のカールと一緒に遺品の整理をした。その様子を幽霊になったサムがぼんやりと見つめていた。サムが死んでから、悲しみのあまりふさぎ込んでしまったモリーは、カールに誘われて散歩に出かけていった。サムが家で一人きりになった時、玄関のドアが鍵で開けられ、先日、自分を殺した強盗が堂々と侵入してきた。強盗は、何かを探すように家の中を物色。その時、散歩からモリーが帰ってきた。サムはモリーに危険を報せようとするが、生きているものに自分の姿は見えないし、物に触れてもすり抜けてしまうだけで、どうすることも出来ない。その時、サムの気配に気付いた猫が飛び上がり、気付かれたと思った強盗は家を飛び出していった。
サムは逃げていった強盗の後をつけて行った。強盗を追い、地下鉄に乗ったサムは、自分の姿に気付いて突進してくる一人の男を見てびっくりした。その男も幽霊だった。縄張りを主張するその男は、サムを突き飛ばした後、電車のガラス窓を手で割ってしまった。サムには、幽霊にどうしてそんなことができるのか不思議でならなかった。地下鉄を降りたサムは、強盗の住所と、その名前がウィリー・ロペスであることを突き止めた。ロペスは電話で何者かと話し、「必ずやる」と強い調子で告げた。いったい何をやるというのだ――しかしながら、モリーに危険が迫っていることには違いない。
強盗のアパートの近所を歩いていたサムは、「霊感アドバイザー」の看板を掲げる店を発見した。サムは、霊媒師なら力になってくれると期待。だが、店で客の相談に乗っていた自称・霊媒師のオダ・メイ・ブラウンは、とんでもないインチキで、サムは思わず失笑してしまった。その時、オダ・メイがサムの悪態にびくりと反応。自分でもインチキを自認していたオダ・メイだったが、サムのおかげで霊感に目覚めてしまったのだ。サムは、混乱するオダ・メイを落ち着かせると、モリーに電話で危険が迫っていることを伝えるよう頼んだ。オダ・メイは気が進まなかったが、モリーに電話をかけると、案の定、相手のほうから一方的にきられてしまった。
オダ・メイはサムと縁を切りたかったが、一晩中、寝室で歌を歌われたため、仕方なく、直接、モリーの家に要件わ伝えに行くことにした。オダ・メイの相手をしようとしないモリーを信用させるため、サムは二人の間でしか知らない事実をオダ・メイの口を通じて伝えた。ようやく、モリーはオダ・メイを信用し、彼女を家に入れた。サムはオダ・メイにロペスの名前と住所をメモさせ、モリーに渡したのだった。だが、これで安心できる訳ではなかった。
その夜、未だサムからの伝言のことに半信半疑のモリーは、家を訪ねてきたカールに相談。カールは、オダ・メイに騙されているとし、サムの伝言を否定した。だが、ロペスのことを確かめることは、モリーに約束した。カールは約束どおり、ロペスのもとに向かい、その後にサムもついていった。サムはカールが事態を好転させてくれると思っていたが、なぜか、カールとロペスは顔見知りのようだった。そして、サムは、カールとロペスのやり取りから、衝撃的な事実を知らされることに。ロペスを雇っていたのは、カールだったのだ――リタ・ミラーの口座を使って、マネー・ランドリーに手を染めていたカールは、口座の存在をサムに気付かけたため、ロペス使って殺させたのだ。だが、ロックを解くためのパスワードは分からず終い。それで、再び、ロペスを使って、モリーの家を探らせていたのだったのだ――親友だと思っていたカールの裏切りに、サムは怒りに震えた。
翌日、モリーは警察に向かい、オダ・メイのことについて尋ねた。その結果、オダ・メイが前科の多数ある詐欺師であることが分かった。警官は、オダ・メイが新聞でサムの死亡記事を見て、モリーに目をつけたのだと結論付けた。もしかしたら、と思っていたモリーは深く落胆した。その夜も、そ知らぬ顔をしてカールがモリーを訪ねてきた。モリーの心の隙間に付け込み、彼女に接近するカールにサムの怒りが爆発。サムは思わずカールに飛び掛った。サムの体はやはりカールの体をすり抜けていったが、なぜか、指先だけが写真立てに触れ、それを弾き飛ばした。自分にも物を動かせる可能性があることに気付いたサムは、地下鉄に向かい、先日の幽霊を探した。地下鉄の幽霊は、サムを追い払おうとするが、彼の熱意に負けて、物の動かし方を教えることに。サムは深夜のプラットホームで特訓し、肉体ではなく魂で物を動かすコツを掴んでいった。
カールへの復讐の名案を思いついたサムは、「霊感アドバイザー」を訪ねた。店は、霊能力に目覚めたオダ・メイを頼り、多数の幽霊が押しかけていた。その時、サムは、一人の幽霊がオダ・メイの体に憑依するのを目撃した。オダ・メイが自分の体から幽霊を追い出すと、追い出された幽霊は魂を疲労させへとへとになっていた。サムは他の幽霊たちを帰させると、オダ・メイに偽の身分証明書作るよう頼んだ。
サムとオダ・メイがやってきたのは、サムの勤めていた銀行。サムは、カールの企みを阻止するため、オダ・メイに架空の人物にリタ・ミラーに成りすませることで、例の口座を解約させることにしたのだ。オダ・メイは、サムに言われるまま、リタ・ミラーの口座を解約。そして、預金されていた400万ドルの小切手を手に入れた。その時、銀行へモリーがやってきてしまった。サムはオダ・メイを急かせて、銀行を脱出した。サムは、とんでもない大金を手にして有頂天になっていたオダ・メイに、近くで寄付を募っていた尼に小切手を手渡すよう指示。オダ・メイは泣く泣く小切手を手放すのだった。
一方、リタ・ミラーの口座が解約されたことに気付いたカールは真っ青に。約束の十一時までに金を別の銀行に移さないと、自分の命も危うくなるのだ。サムは、必死に口座の行方を探すカールをからかい、コンピュータに「人殺し」と入力した。驚いて「誰だ」と叫ぶカールに答え、サムはさらに「サム、サム、サム…」と続けた。銀行を飛び出したカールは、モリーの家に向かい、オダ・メイのこやサムの伝言のことを問い質した。カールのただならない様子に圧されたモリーは、今日、オダ・メイが銀行でリタ・ミラーを名乗っていたことを教えてしまった。オダ・メイにしてやられたことに気付いたカール。彼は、姿の見えないサムに向かいモリーを殺すと宣言すると、家を飛び出していった。
サムはオダ・メイの家に急ぎ、今すぐ逃げるよう急かせた。オダ・メイが家を出た直ぐ後から、カールがロペスと共にやってきた。オダ・メイを探し、家の中を荒らし回るカールとロペス。自由に物を動かせるようになっていたサムは、物を倒したりしてロペスを脅かした。パニックに陥ったロペスは車道に飛び出し、走ってきた車に跳ねられた。絶命したロペスの体から彼の魂が抜け出した。すると、黒い影の姿をした地獄の使いが現われ、ロペスの魂を何処かへ連れ去っていった。
サムはオダ・メイを連れて、モリーの家に戻った。サムは危険が迫っていることをモリーに報せたかった。だが、オダ・メイがいくら説得しても、モリーはもう信用しなくなっていた。サムはオダ・メイに1セント硬貨を出させると、それを玄関のドアの上に滑らせ、モリーの目の高さに浮かべた。硬貨はお守りとしてモリーの手の中へ入った。モリーは目に涙をため、硬貨をくれたのがサムであることを信じた。モリーはオダ・メイが家の中に入ることを許すと、彼女に言われたとおり、カールのことを警察に通報した。サムとモリーがもう一度だけ互いに体に触れ合いたいと願っていることを知ったオダ・メイは、二人の気持ちに心を動かされ、自分の体をサムに貸すことにした。サムはオダ・メイに憑依して、モリーとダンスを踊った。
二人だけの時間は、玄関のドアを激しく音によって打ち破られた。ついに、カールがモリーを襲いにやってきたのだ。オダ・メイの体から抜け出たサムは、魂を消耗して動けなくなってしまった。モリーとオダ・メイは先に逃げるが、すぐにカールに追いつかれてしまった。屋上に逃げようとするオダ・メイを引きずり下ろすカール。カールに馬乗りにされたオダ・メイを助けようと、引き返すモリー。その時、魂を快復させたサムがモリーを助けに駆けつけた。カールはモリーを人質に取り、彼女の頭に銃を突きつけるが、姿の見えないサムにはかなわなかった。窓際に逃げたカールは、闇雲にクレーンの鎖を投げつけた。だが、反動で戻ってきた鎖が、窓ガラスを破壊。カールの胸に鋭く尖ったガラスの破片が突き刺さった。その瞬間、カールの目にサムの姿が見えるようになった。サムに促されて振り向くと、そこには血に濡れた自分の死体があった。カールが自分の死に気付いたとき、その魂は地獄の使いによって連れ去られていった。
無事にモリーを守り抜いたサムにもお迎えの時がやってきた。その時、モリーの目に眩い光に包まれたサムの姿が見えた。モリーに別れを告げ、彼女とキスを交わしたサムは、一人、光の向こうに消えていったのだった。



キャスト
サム・ウィート
パトリック・スウェイジ
モリー・ジェンセン
デミ・ムーア
カール・バーナー
トニー・ゴールドウィン
ローズ
マルティーナ・デグナン
ウィリー・ロペス
リック・エイヴィルス
地下鉄の幽霊
ヴィンセント・スキャヴェリ
オダ・メイ・ブラウン
ウーピー・ゴールドバーグ

スタッフ
監督
ジェリー・ザッカー
製作
リサ・ウェインスタイン
製作補/脚本
ブルース・ジョエル・ルービン
撮影
アダム・グリーンバーグ
音楽
モーリス・ジャール
編集
ウォルター・マーチ
美術
ジェーン・マスキー
衣装デザイン
ルース・モーリー
視覚効果監修
ブルース・ニコルソン
リチャード・エドランド
特殊視覚効果
インダストリアル・ライト・アンド・マジック(ILM)
視覚効果
ボス・フィルム・スタジオ
キャスティング
ジェーン・ジェンキンス
ジャネット・ハーシェンソン