証人の護送という簡単な任務のはずが、なぜか警察に命を狙われる羽目になった刑事。
孤独な刑事と証人である娼婦の逃避行を描くアクション。
ガントレット
原題 | The GAUNTLET |
製作年 | 1977
年
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製作国 | アメリカ |
上映時間 | 109
分
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色彩 | カラー |
イーストウッドが監督・主演した刑事アクション。自分を重要証人共々罠にはめた組織に、しがない刑事が果敢に挑んでいく様を描く。冒頭の朝焼け、ラストの夕焼けが印象的で、全編を彩るジャズが味わい深く、ハードボイルド風味。見どころとされるワイルドなアクションの連続は、とくかく銃弾の数が半端ではない。銃で蜂の巣にされた家がぺしゃんこになったりと、アクションやストーリー展開が笑ってしまうほど漫画的なところもあるものの、バイクの目の前でヘリが墜落するカットや、クライマックスで走行中のバスが無数の銃弾を受けるシーンは、アクション映画の名シーンとして語り草となっている。ちなみに、題名の"Gauntlet"とは、二列に並んだ処刑人の間を走りながら受ける鞭打ち刑の一種のことで、このクライマックス・シーンを指している。また、この言葉には“挑戦する”、“挑戦を受ける”といった意味もある。
女性に手を上げ、銃まで向けるほどやさぐれた主人公は、当時好評だった「ダーティハリー」の主人公を思わせたりもするが、それよりもずっと人間臭いヒーロー像を描き出している。単なる権力への抵抗ではなく、理想の人生に挫折した男が、彼に残された最後の誇りを利用した敵への憤りと共に、人生の最後のチャンスに捨て身の覚悟でかける姿に、滅びの美学を感じさせる。一方で、主人公の逃避行の相棒となる娼婦との関係も、粗削りながら良く描けていて、二人のロマンス色が強い。ここでも、ヒロイン像はよくある足手まとい要員としてではなく、影のある人生を持つ等身大の女性として描いて見せているのもイーストウッドらしい。はじめはけなしあっていた二人が、互いの人生を知るに連れて互いを労わり合い、最終的に決死の覚悟で運命を共にする様はせつなく、ホロリとさせるものがある。
アリゾナ州フェニックス。ある朝、一人のくたびれた男が市警にやってきた。男はベン・ショックリーという名の警官である。苦しい任務を共にしてきた同僚のジョゼフソンは事務職に昇任していたが、彼は未だに平。しかしも、彼は恋人ともうまくいかず、独身。将来に見込みはない彼は、このまま勤め上げて年金を期待する以外に無かった。朝早く出勤したのは、新しい長官のブレイクロックに呼び出されたからであった。ショックリーの管轄は市内のみだったはずだが、ブレイクロックは彼にラスベガス行きを命じた。ガス・マレーという名の容疑者を郡の留置所に護送することが彼の任務だった。ショックリーが容疑者の詳細を尋ねると、ブレイクロックは面倒臭そうに、「つまらない裁判の証人」だと告げた。
ショックリーは命令に従い、すぐさまラスベガスへ向かった。だが、地元の留置所を尋ねると、係りの警官は「“ガス・マレー”などという男はいない」と言った。その代わり、警官は、オーガスティナ・マレーという名の女性と檻の中で会わせた。女はとうのたった売春婦だった。仮病をつかってベッドに張り付いていたマレーは、ショックリーが自分を連れに来たと知ると、激しく抵抗した。彼女は、ここから出れば殺されると考えていて、その証拠に、自分の賭けの対象にされていると主張した。ショックリーが酒場に行くと、確かに、“マレー不着”に対して70倍の掛け率がつけられていた。ショックリーは自分の仕事が失敗すると思われていることが許し難かった。
ショックリーは万全を期して、マレーを病人に化けさせて救急車で留置所を出発。途中で、あらかじめ手配していたレンタカーに乗り換えるつもりだった。だが、地元の警官がエンジンをかけると、レンタカーはショックリーたちの目の前で爆発。マレーの恐れていたことは本当だったのだ。ショックリーは救急車で空港へ向かうことに。だが、その間にも、マレーの命を狙う追っ手が車で迫ってきた。マレーはショックリーから渡された銃を使い、追跡車を転覆させることに成功。だが、一人で逃げたいマレーは銃をショックリーに返さず、彼の頭に突きつけた。しばらくもみ合いになり、その勢いでドアから外に放り出されそうになったマレーは、ショックリーに助けられた。観念したマレーは、身支度を整えるため、車を自宅に寄らせたのだった。
もはや只事でないことはショックリーも分かっていた。マレーが支度をしている間、ショックリーはブレイクロックに電話をかけ、出動の要請をした。すぐに警察の車輌が大挙してやってくるが、家を包囲した彼らは銃を取り出し、ショックリーに警告を発した。ショックリーは、自分が犯罪者扱いされていることが理解できなかったが、そのうちに警官たちは家に向けて一斉に発砲。みるみるうちに家は蜂の巣になった。いつのまにか、マレーは逃げていて、ショックリーも家の中を彷徨っているうちに抜け穴を発見。辛くも脱出したショックリーは、抜け穴の出口にいたマレーと合流。二人は、自分たちがハメられたことに気付いた。
近くにいたパトカーをハイジャックしたショックリーとマレーは、運転していた巡査にアリゾナとの州境へ行くよう命じた。ショックリーたちは、敵はマフィアだろうと推理。途中で寄ったドライブインで、ブレイクロックに再度、救援を要請した。国境までの道すがら、巡査は売春婦であるマレーを侮辱。横で聞いていたショックリーは、思わず巡査に銃を突きつけた。だが、マレーは毅然とした態度で、警察の汚さなを指摘し、巡査にやりかえした。それからマレーは、今度の事件の敵も警察ではないかと疑いだした。夜半、国境近くにやってきた時、ショックリーはマレーを信じ、二人で車を降りた。隠れてパトカーの行方を見ていると、待ち伏せていた警察により、巡査は射殺さたれた。マレーの読みは正しかったのだ。
ショックリーとマレーは野宿で夜を明かすことになった。ショックリーはマレーから、敵が自分たち二人ともを葬るつもりだと指摘され、言葉を失った。自分は、警察から見切られた捨て駒だったのか? ショックリーはまんじりともせずに考えつづけ、翌朝、マレーの資料にあった“デルッカ”という名について彼女に尋ねた。マレーが証人となるはずの州対デルッカの裁判と、護送が妨害されることの間に、何か関係があるはずだ。マレーはショックリーの懇願に負け、デルッカにある男を接待させられたことを打ち明けた。マレーは接待の相手の顔は見ていなかったようだが、その特徴はブレイクロックに違いなかった。自分たちをハメたの敵はブレイクロックだったのだ。
ショックリーは、ちょうど野宿地の近くにやってきたバイカーの集団を警察の権限で脅かし、一台のバイクを強引に奪い取った。ショックリーとマレーはバイクでフェニックスを目指すことになった。その途中、ショックリーは電話ボックスから、いちばん信頼の置けるジョゼフソンと連絡をとった。ショックリーは自分が警官殺しの容疑で指名手配されていることを知った。その時、山陰からヘリが姿を現し、電話ボックスに銃撃してきた。ブレイクロックの差し向けた暗殺者だった。小回りの効くバイクで逃げ回るうち、操縦を誤ったヘリは高圧線に絡まって爆発した。
一難去ったものの、バイクは敵の銃撃で故障してしまい、ショックリーたちは通りかかった貨物列車に飛び乗ることに。だが、飛び乗った車輌には、偶然にもさきほどショックリーが追い払ったバイカーたちも乗っていた。バイカーたちはさきほどの報復として、ショックリーを三人がかりで殴り続けた。マレーはショックリーを助けるため、自ら服を脱いでバイカーたちを誘惑。マレーに覆い被さるバイカーたちにショックリーは怒りを爆発させ、銃を彼らの頭につきつけた。バイカーたちを列車から突き落としたショックリーは、マレーと寄り添うようにして旅を続け、やがてある小さな町に辿り着いた。二人はモーテルでしばしの休憩をとることになった。
ある決意を固めたショックリーは、モーテルからジョゼフソンに電話をかけ、これからフェニックスの市庁に証人をつれて乗り込むことを宣言。そして、そのルートをあえてブレイクロックに教えるよう頼んだ。市民を巻き添えにせずにブレイクロックと対決する覚悟だった。マレーは、裏通りから目立ただずに行くようすすめるが、ショックリーの考えは変わらなかった。これは自分と長官の間の問題、いや、自分自身の問題だったのだ。ショックリーの決意の固さを知ったマレーは母に電話をかけ、「いい人に会った」と結婚宣言。また、ベガスの酒場に電話をかけると、100倍に跳ね上がっていた“マレー不着”に全財産の5000ドルをかけた。彼女もまた、ショックリーと運命を共にする覚悟だった。
翌朝、ショックリーとマレーは、フェニックス行きの大型バスを乗っ取った。バスを鉄板で補強すると、ショックリーたちは町を出発した。一方、ジョゼフソンは、親友を救うべく、州対デルッカの裁判を取り仕切る地方検事補のファイダースピールにショックリーのことを相談。ファイダースピールはショックリーを保護することを約束するが、実は彼はブレイクロックに通じていた。ブレイクロックは、ショックリーがやってくることを恐れていたが、ファイダースピールの提案により、市庁にたどり着く前に警官たちにバスを射撃させて、ショックリーたちを始末することにした。こうして、市警の半分もの警官が借り出され、ショックリーたちの乗る大型バスを待ち受けることになった。
フェニックスに到着したバスの前にジョゼフソンが立ちふさがった。ショックリーは、ファイダースピールが保護を約束していると言い、ショックリーに計画を踏みとどまらせようとした。迷っていたショックリーだったが、ショックリーの熱意とマレーの同意に折れ、バスを降りた。だが、次の瞬間、ビルの陰から凶弾が襲い掛かり、ジョゼフソンが命を落とした。罠に気付いたショックリーとマレーはバスに引き返した。ショックリーは足に銃弾を受けながらも計画を続行。バスが市庁に通ずる道に入ると、街に市民の人影はなく、代わりに車道の両脇に警官たちが整列していた。警官達は隊長の号令で一斉に銃を発砲した。無数の銃弾がバスの前後左右に降り注いだ。バスは蜂の巣になりながらも進みつづけた。そして、市庁前の階段に激突し、バスは止まった。
バスの中からショックリーとマレーが体を引きずるようにして現われた。その壮絶な光景に警官隊の隊長も部下に銃を下ろすように命じた。そこへ血相を変えたブレイクロックが走りより、ショックリーを指し、「こいつを撃ち殺せ」と叫んだ。だが、誰もその命令を聞く警官はいなかった。ショックリーはファイダースピールに銃を突きつけ、彼の口からブレイクロックの悪行を暴露させた。ブレイクロックはファイダースピールを黙らせようと銃を乱射。ファイダースピールは死に、ショックリーも倒れた。動転したマレーはショックリーの銃を取り、ブレイクロックを射殺した。マレーはショックリーの体の上に泣き崩れるが、彼は死んではいなかった。ショックリーはマレーに抱きかかえられにれるようにしながら、市庁を後にしたのだった。
キャスト
ベン・ショックリー
Ben Shockley
| クリント・イーストウッド
Clint Eastwood
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ガス・マレー
Gus Mally
| ソンドラ・ロック
Sondra Locke
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ジョセフソン
Josephson
| パット・ヒングル
Pat Hingle
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ブレイクロック
Blakelock
| ウィリアム・プリンス
William Prince
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巡査
Constable
| ビル・マッキニー
Bill McKinney
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ファイダースピール
Feyderspiel
| マイケル・カヴァノー
Michael Cavanaugh
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ウェイトレス
Waitress
| キャロル・クック
Carole Cook
|
留置所の婦警
Jail Matron
| マラ・コーデイ
Mara Corday
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胴元
Bookie
| ダグラス・マグラス(ダグ・マグラス)
Douglas McGrath
(Doug McGrath)
|
内勤の巡査部長
Desk Sergeant
| ジェフ・モリス
Jeff Morris
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バイカー
Bikers
| サマンサ・ドーン
Samantha Doane
ロイ・ジェンソン
Roy Jenson
ダン・ヴァディス
Dan Vadis
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スタッフ
装飾
Art Director
| アレン・E・スミス
Allen E. Smith
|
編集
Editors
| フェリス・ウェブスター
Ferris Webster
ジョエル・コックス
Joel Cox
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音楽
Music by
| ジェリー・フィールディング
Jerry Fielding
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撮影
Director of Photography
| レックスフォード・メッツ(レックスフォード・L・メッツ)
Rexford Metz
(Rexford L. Metz)
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製作補
Associate Producer
| フリッツ・メインズ
Fritz Manes
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脚本
Written by
| マイケル・バトラー
Michael Butler
デニス・シャーヤック
Dennis Shryack
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製作
Produced by
| ロバート・デイリー
Robert Daley
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監督
Directed by
| クリント・イーストウッド
Clint Eastwood
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プロダクション
製作
| マルパソ・カンパニー
Malpaso Company
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