判事暗殺の真相に迫る論文を書いた法科の女子大生が、
国家規模の巨大な陰謀に巻き込まれていく姿を描くサスペンス。

ペリカン文書

原題THE PELICAN BRIEF
製作年1993 年
製作国アメリカ
上映時間141 分
色彩カラー



解説
『ザ・ファーム 法律事務所』と共に、グリシャムの小説のはじめての映画化。両者とも巻き込まれ型サスペンスであるため、比較されることが多い。監督は、社会派の巨匠A・J・パクラ。キャストは、ジュリア・ロバーツ、デンゼル・ワシントンというスターの共演となった。
主人公は、法科に籍を置く聡明で美人の女子大生。判事殺害事件に興味を持った彼女は、事件の犯人が政府内部にいるとするレポートを書くが、それがもとで命を狙われるはめに。恋人まで殺された彼女だったが、信頼できる新聞記者と協力し、命の危険を感じながらも、自説を裏付ける証拠を探しはじめる。二人と見えない黒幕との息詰まる攻防が、ホワイトハウスの狂乱を差し挟みながら、描かれていく。大胆不敵な物語だが、その中に、国益を守るためならば個人の犠牲も辞さない国家権力の暗部を仄めかす内容となっている。
ヒロインと騎士役の男性が手と手を取り合って奔走するというシチュエーションだからといって、アクションやロマンスを期待してはいけない。ヒロインが暗殺者に付け狙われるスリリングな場面もあるにはあるが、過剰に派手なシーンで畳み掛けることはしない。真相の追究に走る二人の行動を正確になぞることを最優先とし、彼らの行動の意味にこそスリラーを求めるところは、やはり、パクラならではなのである。最後の最後まで緊張感を持続させる静謐な演出、すなわち、パクラ節がますます磨きがかかっていて、ちょっぴり、マゾヒスティックな快感が楽しめる。ただ、パクラ映画の通例として、観るのにかなり集中力を要するので注意。複雑な人間関係や事件の背景をしっかり意識しておかなければ、まったく面白くも怖くもなくなってしまうのだ。



ストーリー
大統領選が間近に迫ったワシントンで、最高裁の二人の判事、ローゼンバーグとジェンセンが一夜のうちに相次いで暗殺された。その直後、ホワイトハウスにCIA長官ボブ・グミンスキーとFBI長官デントン・ボイルズが召集され、事件の対応と調査が開始された。
ローゼンバーグに会っていたという、ヘラルド紙の記者グランサムは、テレビのニュースで死の直前の氏の様子を報告。ニューオリンズでテレビを観ていた、法学部の大学教授トーマス・キャラハンは、教え子で年の離れた恋人でもある24歳のダービー・ショウと一緒に容疑者の予想をした。暗殺事件に深い感心を寄せたダービーは、大学の休みの期間を利用し、公文書館で独自に調査をはじめた。そして、公文書館にこもって一週間後、ダービーは事件の黒幕について推理を巡らせたレポートを書き上げ、キャラハンのもとへ帰ってきた。
主席大統領補佐官フレッチャー・コールの指示で、判事を失った最高裁の再編成が早くも始まろうとしていた。その頃、キャラハンは、FBIの法律顧問を務める親友ギャビン・バーリークと会い、ダービーの書いた興味深いレポートを渡した。一方、グランサムのもとに、ガルシアと名乗る正体不明の男から電話がかかってきた。ガルシアは、判事暗殺事件の黒幕について知っていると言い、「見てはいけないメモ」の存在を仄めかした。グランサムは、ガルシアの素性を掴むため、二度目の電話の時、公衆電話にいたガルシアの姿を写真納めることに成功した。
その頃、FBIは、テロ支援国家のテロリストが多数ワシンンに潜伏していることを掴み、テロリストの一人カメールを容疑者とマークしていた。だが、憶測に過ぎないとされていた「もうひとつの別の説」、すなわち、ダービーのレポートが、バーリークの手からボイルズへ渡り、さらに、グミンスキーの手からコールのもとへ流れていった。そして、ついに、レポートは大統領の目に触れることにとなった。レポートを呼んだ大統領は、体調不良という名目で逃げるように病院に入院してしまった。
ダービーは、自分の書いたレポートがいつしか「ペリカン文書」と呼ばれ、ホワイトハウスを揺るがしているとは知らなかった。その彼女が、キャラハンと外食をした帰りのことだった。キャラハンが一人で車に乗り、エンジンをかけた瞬間、ダービーの目の前で車が爆発した。突然の恋人の死に呆然としていたダービーの前に、ルパートと名乗る巡査部長が事情を訊きに現れた。だが、後で警察に訪ねてみると、ルパートなどいう名の警官はいないということが分かった。訳の分からなくなったダービーは、家に帰ることも出来ず、モーテルで一夜を明かした。
翌朝、ダービーはバーリークに電話をかけ、キャラハンの死を報せると共に、レポートの行方を尋ねた。ボイルズは捜査の経過を報告するため、ホワイトハウスを訪ねた。ところが、例のレポートについて事実関係を確認中であることを報告すると、マスコミに知られることを恐れられ、捜査を打ち切るよう遠まわしに命じられた。「ペリカン文書」の仮説は正しかったのだ。
一方、ダービーはカツラで変装してモーテルを出るが、怪しい男に後を追われることに。命からがら別のホテルに移ったダービーは、キャラハンがファンであったグランサムに電話をかけた。友人の名を借りてアリスと名乗ったダービーは、暗殺事件の真相が書かれたレポートの存在と、その作者が自分であることを打ち明けた。ガルシアと連絡が取れなくなり、途方に暮れていたグランサムは、アリスの語る話に興味を抱いた。
翌日、アリスと会ったダービーは、自分の部屋が荒らされていることを知り、あのレポートがすべての原因でいることを確信した。ダービーは、キャラハンの葬儀に出席するアリスに、自分がデンバーに行くと吹聴して欲しいと頼んだ。再び、怪しい男に追われながらホテルに戻ったダービーは、バーリークと会う約束を取り付けた。だが、ダービーとの電話を終えた直後、通話を盗聴していた謎の男により、バーリークは殺された。
翌日、何も知らないダービーは、待ち合わせ場所のリバーウォークにいた男をバーリークと思ってしまった。男は洋服の下に銃を忍ばせ、ダービーを撃ち殺そうとした。だが、その瞬間、男は何処からともなく発射された銃弾を受けてその場に倒れた。バーリークが狙撃されたと思ったダービーは、唯一の頼りとなったグランサムに電話をかけ、会ってくれるよう頼んだ。そして、その夜、ダービーはホテルの部屋で待っていたグランサムを訪ね、レポートの詳細を語り始めた――
そもそもの事件の発端は、数年前に行なわれたひとつの訴訟だった。油田で財を成した実業家マーティスが、新たな運河の建設のために湿原を開発しようとしていたときのこと。湿原に生息するペリカンなどの野鳥の保護を訴えている「緑の基金」が、マーティスに運河の建設の中止を求めたのだ。幸いも湿原は保護区であり、ペリカンが絶滅の危機に瀕していたため、大方の予想を裏切り「緑の基金」が勝訴したが、当然、それにマーティス側が控訴してきた。マーティは法律事務所を抱きこみ裁判に挑もうとしたが、それに反発していた一人の弁護士が自殺。遺族は自殺が偽装殺人だったと訴えるが、捜査は打ち切りになった。
そして、ここからがダービーの推理である。環境保護派であるジェンセンはマーティスにとって邪魔な存在であったため殺された。一方、高齢であるローゼンバーグは次の裁判までに死亡することが予想されていたが、あえて殺害されたのはなぜか? それは、早めに最高裁の再編が行なわれれば、次の判事が予測でき、それだけマーティンが根回しする時間を稼げるからである――
レポートの全貌を聞き終えたグランサムは、マーティが大統領に多額の献金をしていることを思い出した。再選を望む大統領にとって、マーティの失脚は不利になる。事件にはホワイトハウスも関わっている可能性も視野に入れなければならない。ダービー、FBI、ホワイトハウスへつながる一つのリンク。ホワイトハウス、マーティン、法律事務所へつながる別のリンク。消息を絶ったガルシアは後者のリンクの末端、つまりは法律事務所の人間に違いなかった。
グランサムは、マーティンの証拠隠滅を阻止するため、ダービーに一緒にワシントンに来てくれるよう頼んだ。だが、ダービーは、ヘラルド紙のオフィスに「ニューオリンズから離れる」と電話をかけてきた後、消息を絶ってしまった。その頃、退院した大統領は、暗殺事件の真相やマーティンとの関係が明るみに出ることを恐れていた。コールは大統領を安心させようと、「ペリカン文書」をばらまき、極秘を極秘でなくしてしまう最終手段を提案。だが、大統領はどうにか文書を公表しない手段に拘った。すると、コールは、文書がはじめからなかったことにする手はうってある、と言い、著者の暗殺工作を仄めかした。
一人でオフィスに戻ったグランサムが、編集長から別の出張を命じられ、待機していると、そこに突然、ダービーが訪ねてきた。ダービーはオフィスが盗聴されていると予想し、その裏をかいたのだ。誰にも報せずに調査に出かけた二人はワシントンでマーティンが抱き込んだ法律事務所を「ホワイト&ブレイズビッチ」一つに絞りこんだ。そして、大学の就職課で「ホワイト〜」に就職した学生を一人ひとりあたっていった。
グランサムとダービーが最後に話を聞くことになったエドワード・リニーという学生は、アルコール依存症のためにパークレーン病院で治療を受けていた。病院に侵入したダービーは、ガルシアの写真をエドワードに見せ、それが、石油・ガス課のカーティス・モーガンであることを掴んだ。だが、ダービーが「ホワイト〜」にモーガンを訪ねると、本人は先日、暴漢に撃たれて死亡していた。グランサムとダービーはモーガンの遺族を訪ねるが、取材には応じる気配なく、門前払いをされてしまった。
マーティンに繋がる手がかりが失なわれてしまい、ダービーは大きなショックを受けた。ところが、その時、ホテルにいたグランサムのもとにモーガン夫人から電話がかかってきた。モーガンの家に向かうと、夫人は夫の遺品の中からリッグス銀行の貸し金庫の鍵を見つけたことを打ち明けた。身の危険を恐れている夫人に変わり、ダービーが金庫を開けに行くこになった。だが、モーガン家での会話は彼女を付け狙う殺し屋にすべて聞かれていた。
翌日、リッグス銀行に向かったダービーは、貸し金庫の中からビデオテープと宣誓供述書を取り出した。ダービーはグランサムと共に駐車場の車に戻るが、エンジンがかかりにくくなっていた。ダービーは、キャラハンの悲劇のことを思い出いと、グランサムと車から飛び出した。車に爆弾が仕掛けられていたのだ。ダービーとグランサムは、駐車場に潜んでいた殺し屋たちに追われながら、どうにかヘラルド紙のオフィスにたどり着いた。
持ち帰ったビデオテープを再生してみると、そこに映っていたのはモーガンだった。モーガンは、宣誓供述書の内容を証明すべく、事務所がマーティンの企業から依頼をうけていたことや、マーティンの企業の重役ベルマーノからモーガンの上司のウェイクフィールドへメモが渡されていたことを証言した。メモには、暗殺計画の実行の報告と共に「ペリカンは4年後に舞い上がる」と記されていたのだった。かくして、グランサムは、マーティン、コール、グミンスキーら関係者に事件の真相を記事にすることを報せた。
暗殺事件について大陪審が開かれることになった時、ボイルズがダービーとグランサムに、二人も知らない事件の詳細を語った――ホワイトハウスから捜査を打ち切るよう命じられていたたこと。ダービーの目の前で殺された男は、暗殺の実行犯であるカーメルであったこと。そして、狙撃したのは彼をマークしていたCIAの工作員ルパートだったこと――グランサムはボイルズに、ダービーを大陪審で証言させる条件として、彼女の身の安全ため、専用機で護送することを頼んだ。大陪審に向かう専用機から降り立ったグランサムとダービーは、判事暗殺事件の真相のスクープが踊るヘラルド紙を二人で見た後、抱きしめあって別れを惜しんだ。
数日後のテレビの討論番組。司会者は、判事暗殺事件の真相を暴いたダービー・ショウの人物像について、グランサムに尋ねた。だが、彼は質問に対し、曖昧な笑みを浮かべるだけだった。その頃、当のダービー本人は、無事に脱出した外国からその討論番組を観ていたのだった。



キャスト
ダービー・ショウ
Darby Shaw
ジュリア・ロバーツ
Julia Roberts
グレイ・グランサム
Gray Grantham
デンゼル・ワシントン
Denzel Washington
トーマス・キャラハン
Thomas Callahan
サム・シェパード
Sam Shepard
ギャビン・バーリーク
Gavin Vereek
ジョン・ハード
John Heard
フレッチャー・コール
Fletcher Coal
トニー・ゴールドウィン
Tony Goldwyn
デントン・ボイルズ
Denton Voyles
ジェイムズ・B・シッキング
James B. Sikking
ボブ・グミンスキー
Bob Gminski
ウィリアム・アザートン
William Atherton
大統領
President
ロバート・カルプ
Robert Culp
カーメル
Khamel
スタンリー・トゥッチ
Stanley Tucci
ローゼンバーグ最高裁判事
Justice Rosenberg
ヒューム・クローニン(特別出演)
Hume Cronyn (Special Appearance by)
スミス・キーン
Smith Keen
ジョン・リスゴー
John Lithgow
マーティ・ベルマーノ
Marty Velmano
アンソニー・ヒールド
Anthony Heald
スタンプ
Stump
ニコラス・ウッデソン
Nicholas Woodeson
エドウィン・スネラー
Edwin Sneller
スタンリー・アンダーソン
Stanley Anderson
マシュー・バー
Matthew Barr
ジョン・フィン
John Finn
アリス・スターク
Alice Stark
シンシア・ニクソン
Cynthia Nixon
カーティス・モーガン(ガルシア)
Curtis Morgan (a.k.a. Garcia)
ジェイク・ウェバー
Jake Weber
エリック・イースト
Eric East
ケイシー・ビッグス
Casey Biggs

スタッフ
キャスティング
Casting by
アリクス・ゴーディン,C.S.A.
Alixe Gordin, C.S.A.
製作補
Associate Producer
ドナルド・レヴェンタール
Donald Laventhall
衣装デザイン
Costume Designer
アルバート・ウォルスキー
Albert Wolsky
音楽作曲
Music Composed by
ジェイムズ・ホーナー
James Horner
編集
Film Edited by
トム・ロルフ,A.C.E.
Tom Rolf, A.C.E.
トゥルーディ・シップ
Trudy Ship
美術
Production Designer
フィリップ・ローゼンバーグ
Philip Rosenberg
撮影
Director of Photography
スティーヴン・ゴールドブラット,A.S.C.
Stephen Goldblatt, A.S.C.
原作
Base on the book by
ジョン・グリシャム
John Grisham
脚本
Screenplay by
アラン・J・パクラ
Alan J. Pakula
製作
Produced by
アラン・J・パクラ
Alan J. Pakula
ピーター・ヤン・ブルッグ
Pieter Jan Brugge
監督
Directed by
アラン・J・パクラ
Alan J. Pakula

プロダクション
提供
Presents
ワーナー・ブラザース
Warner Bros.