人を裁く立場にある検事が、愛人であった女性検事補の殺害容疑をかけられる。
本格法廷サスペンス。

推定無罪

原題PRESUMED INNOCENT
製作年1990 年
製作国アメリカ
上映時間127 分
色彩カラー



解説
スコット・トゥローのベストセラー小説を、『大統領の陰謀』などのサスペンスの巨匠アラン・J・パクラが映画化。愛人の殺人容疑をかけられた検事補が法廷に立たされ、破滅へと向かっていく過程を静謐なタッチで描く。堅物の検事を演じるはハリソン・フォード。これまで飄々とした役の多かった彼の見せるシリアスな芝居が意外と良好。現場を熟知していることが逆にあだとなり、足元をすくわれていく検事の恐怖をひきつった表情で表現している。
「推定無罪」とは、いわゆる「疑わしきは罰せず」という刑事裁判の基本原則で、事実についての証拠がない場合は被告人に対して有利な判断をするというものである。主人公の検事が犯人なのか? それとも、彼は陰謀に巻き込まれ、真犯人は別にいるのか? 悪女の死から明らかになる複雑な人間関係、権力闘争と陰謀の連鎖。証拠のグラスの行方、そして、事件の鍵となる“Bファイル”とは? 物語は、「推定無罪」の原則を観客に委ねるかのごとく、ラスト直前まで決定的な手がかりが何一つ示されないまま進む。そして、ラストで明らかになる事実の衝撃!
とにかく静かで地味な作品だが、事細かに描写された法廷での駆け引きの緊張感はすさまじいものがあり、気を抜く暇も与えない。アクションなどの派手なシーンはまったく見せず、議論の集積だけでここまでのサスペンスを描き出したのは、パクラの真骨頂といえよう。特に観客を過った見解へ誘導し、思いのままに翻弄していくテクニックが鮮やか。法廷で壮大な茶番が行なわれることになったのも、一人の主婦の犯した過ちのせいだった、という真相は不気味で後味が悪いが、騙される快楽に浸れる結末だ。真相を知った後、主人公の妻の挙動に注意して観直し、別の角度からドラマを味わうのも一興かもしれない。



ストーリー
真実の発見を信条とする理想主義の主席検事補ラスティ・サビッチ。彼は大学に通い博士を目指す妻バーバラ、小学校へ通う息子ナットの三人で平穏に暮していた。検事局の局長レイモンド・ホーガンが地方検事選の最中だったある日、後輩の美人検事補キャロリン・ポルヒーマスが惨殺されるという事件が起きた。報告によれば、キャロリンは縛られてレイプされた後、鈍器で頭部を殴られた上に絞殺されたという。その日は殺人部の検事トミー・モルトが欠勤していた。また、レイモンドの対立候補は以前、局を解雇したニコ・デラ・ガーティアで、彼と通じているモルトには任せられず、事件の調査はラスティが担当することになった。だが、これまでレイモンドの信頼に応えてきたラスティも、今度の事件の調査に関しては消極的だった。それというのも、キャロリンはラスティの愛人で、それを知る者はバーバラ以外にいないのだっだ。
ラスティはいつも組んでいる調査員リップランザー刑事共に調査を開始することにした。まず、キャロリンのオフィスを調べていると、パソコンの中に“Bファイル”と呼ばれる公務員の収賄に関する事件の記録を発見した。性犯罪や児童虐待を専門に扱う彼女が普段、担当するはずのない案件である。だが、残っているのは記録だけで、なぜか調書は見当たらなかった。一方、リップランザーは犯行現場を調べ、不審な点に気付いた。部屋の窓が開け放たれ、犯人をビールでもてなした形跡が残っていたのだ。リップランザーは、ビールの注がれていたグラスを鑑識に回した。
キャロリンの葬儀の後、ラスティはBファイルのことをレイモンドに尋ねた。十日後に迫った選挙のことで苛立っていたレイモンドは、何も言わずに隠していたBファイルの調書をラスティに差し出すと、あわただしく会合へ出かけていった。その調書は、遡ること五年前、犯罪事件の容疑者レオンが検事補へ賄賂を渡し、訴訟を取り下げさせたことに関しての匿名の調査依頼だった。
引き続き調査をしていたリップランザーは、キャロリンの膣内から検出された精子が死滅、つまり、犯人が不妊症だったことをラスティに報せた。また、精子から血液型がA型であることが分かり、それはラスティの血液型と一致していた。リップランザーが取ってきたキャロリンの通話記録には、ラスティの自宅から掛けられたものも含まれていた。ラスティはキャロリンとの関係が局内に知られるのを恐れ、記録をを無視するようリップランザーに言った。
ラスティはキャロリンの元夫である大学講師ポルヒーマスを訪ねた。ポルヒーマスは、うそや演技の上手いキャロリンを憎んでいて、彼女を指して「死ねばいい思っていた」と洩らした。局に戻ったラスティは、検死官の“ペインレス”ことクマガイ医師を訪ね、キャロリンの遺体のことを訪ねた。クマガイは膣内から避妊具のペッサリーか抜き取られた形跡に気付いていて、レイプが偽装された可能性を指摘した。ラスティは犯行の状況から犯人が法に明るい人物で、司法関係者である可能性をレイモンドに告げた。その時、デラ・ガーティアの優勢の選挙に疲れきっていたレイモンドは、キャロリンと寝ていたことを打ち明けた。Bファイルを渡したのも、キャロリンに情が移ったからだったのだ。
レイモンドから判事への推薦をほのめかされたラスティはその夜、一人でキャロリンとのことを思い返していた――保護監察官上がりの新人検事補キャロリンと親密になったきっかけは、ある児童虐待事件を一緒に担当したことだった。やがて密会を繰り返すようになった二人。キャロリンはラスティに、レイモンドが再選しなかった後の後釜を期待していた。だが、ラスティに野心がないことを知ると、キャロリンは彼を避けるようになったのだった――
リップランザーは、レオンの保護監察官がキャロリンで、担当検事補がモルトだった事実を掴み、ラスティに報せた。だが、その翌日、ラスティはモルトによってキャロリン殺害の容疑で訴追されることとなった。例のグラスにラスティの指紋が付着していたというのだ。ラスティは自分の弁護を、法廷でのライバルであった弁護士サンディ・スターンに依頼した。大陪審に召還されたラスティはサンディの指示でいっさいに証言を拒んだだめ、公判に持ち込まれることになった。
デラ・ガーディアを中心する検察側の論拠は、ラスティが別れ話を持ち出したキャロリンに逆上して殺害し、その後に偽造工作した、ということである。それを崩すためには、弁護側は動機の弱さを攻めなければならない。ラスティはレイモンドに証言を依頼することにした。だが、レイモンドは、ラスティがキャロリンとの関係を隠し、捜査も本気でやっていなかったことに怒っていた。レイモンドの発言により、同席していたサンディにキャロリンとの関係が知られた。焦ったラスティは、収賄事件に関係したモルトの陰謀を唱え、サンディに無実を訴えてしまうのだった。
ついに、公判が開かれた。だが、モルトが提出するはずだった証拠品のグラスが証拠品保管庫から紛失していることが発覚。重要な証拠に関する証言ができないまま、裁判は進んだ。裁判中、ラスティは、事件がモルトの罠の可能性を踏まえ、重要な証人であるレオンの捜索をリップランザーに頼んだ。一方、法廷ではレイモンドの悪意ある証言により、ラスティは苦しい立場に追い込まれた。だが、すかさず、サンディが本件とは無関係なBファイルについてレイモンドに質問した。ラレン・リトル判事からBファイルのことを尋ねられたサンディは「被告人に必要な証拠」だと答えた。だが、ラスティはサンディがBファイルの件を追及し始めた真意が分からなかった。
リップランザーが証言台に立った時、通話記録を隠していたことが知られ、再び、ラスティは追い込まれた。バーバラにアリバイの照明をさせるという提案もあったが、ラスティは拒否。だが、ラスティ自身が証言台に立てば、キャロリンとの関係を追及され、検察側の論拠を決定的なものにしかねない。それに、グラスの指紋が証拠として提出されるのも時間の問題だった。ラスティが指紋を証拠とすることを禁止する判例を必死になって探している時、リップランザーから電話がかかってきた。レオンが発見されたのだ。ラスティとリップランザーはレオンを絞り上げ、賄賂を渡した検事の名を吐かせた。だが、レオンの告げたのは、ラスティが予想していなかった意外な人物だった。収賄したのはモルトではなく、ラレン・リトルだったのだ。
グラスが紛失したまま指紋の証拠が提出された後、最後の証人としてクマガイ医師が立った。サンディは、キャロリンがペッサリーを使用していたことをクマガイに証言させた後、クマガイの署名付きの書類を提示。そこには、キャロリンが卵管結紮、つまり、避妊手術をしていたことが記されていた。サンディは、クマガイのを見落としから、偽装レイプでない可能性を示したのだった。ラレン・リトルは、グラスが出ないこと理由に、ラスティが犯行現場にいたという証拠も、キャロリンと肉体関係があったという証拠もないと判断し、ラスティを放免、訴えを棄却した。
閉廷後、ラスティはサンディがラレン・リトルの収賄を知っていたことに気付いた。サンディはあえてBファイルのことを持ち出し、ラレン・リトルを脅していたのだ。サンディの巧みな駆け引きにより、ラスティは救われたが、あのグラスはどこへいったのか? 実は、グラスを鑑識から預かっていたリップランザーが持ちつづけていたのだ。リップランザーからグラスを渡されたラスティはそれを川へ投げ捨てた。
ラスティの家庭に平穏が戻ったある日のこと、柵の修理をしていたラスティは、道具箱の手斧に血と髪がこびりついているのを見つけた。大学から帰宅してきたバーバラは、手斧を水道で洗っているのを見つけ、事件の真相を語り始めた。キャロリンを殺したのは、家庭の平穏を破壊した彼女のこと恨んでいだバーバラだった。バーバラは、キャロリンの家のものと同じグラスに夫の指紋をつけ、ペッサリーに溜まった夫の精液を冷凍庫で保管。そうした下準備を重ね、犯行に及んだのだ。事件を迷宮入りにし、生活をもとに戻すのがキャロリンの狙いだった。だが、彼女の思惑ははずれて、裁判になってしまったのだった。



キャスト
ラスティ・サビッチ
Rusty Sabich
ハリソン・フォード
Harrison Ford
レイモンド・ホーガン
Raymond Horgan
ブライアン・デネヒー
Brian Dennehy
サンディ・スターン
Sandy Stern
ラウル・ジュリア
Raul Julia
バーバラ・サビッチ
Barbara Sabich
ボニー・ベデリア
Bonnie Bedelia
ラレン・リトル判事
Judge Larren Lyttle
ポール・ウィンフィールド
Paul Winfield
キャロリン・ポルヒーマス
Carolyn Polhemus
グレタ・スカッキ
Greta Scacchi
リップランザー刑事
Detective Lipranzer
ジョン・スペンサー
John Spencer
トミー・モルト
Tommy Molto
ジョー・グリファジ
Joe Grifasi
ニコ・デラ・ガーディア
Nico Della Guardia
トム・マーディロシアン
Tom Mardirosian
ユージニア
Eugenia
アン・マリア・ホースファード
Anna Maria Horsford
“ペインレス”・クマガイ
"Painless" Kumagai
サブ・シモノ
Sab Shimono

スタッフ
キャスティング
Casting by
アリクス・ゴーディン,C.S.A.
Alixe Gordin, C.S.A.
衣装デザイン
Costume Designer
ジョン・ボクサー
John Boxer
音楽
Music by
ジョン・ウィリアムズ
John Williams
編集
Film Editor
エヴァン・ロットマン(エヴァン・A・ロットマン),A.C.E.
Evan Lottman (Evan A. Lottman) , A.C.E.
美術
Production Designer
ジョージ・ジェンキンス
George Jenkins
撮影
Director of Photography
ゴードン・ウィリス
Gordon Willis
製作総指揮
Executive Producer
スーザン・ソルト
Susan Solt
原作小説
Based upon the novel by
スコット・トゥロー
Scott Turow
脚本
Screenplay by
フランク・ピアソン
Frank Pierson
アラン・J・パクラ
Alan J. Pakula
製作
Produced by
シドニー・ポラック
Sydney Pollack
マーク・ローゼンバーグ
Mark Rosenberg
監督
Directed by
アラン・J・パクラ
Alan J. Pakula

プロダクション
提供
Presents
ワーナー・ブラザース
Warner Bros.
製作
Production
ミラージュ
Mirage