山下泰文陸軍大将がヨーロッパ視察の帰りに立ち寄ったホテルで密室殺人事件に遭遇。
容疑者として浮かび上がったのは意外な人物だった。

シベリア超特急2

原題SIBERIAN EXPRESS 2
製作年2000 年
製作国日本
上映時間106 分
色彩カラー



解説
はやり、映画界には魔物が棲んでいるのだろうか。あの超問題作『シベリア超特急』の続編の登場である。前作については、とても良い出だとはお世辞にも…いや、どちらかというと、悪い出来であることを断言できる代物であり、あのまま埋もれていれば続編などというものは絶対にありえなかっただろう。しかし、水野氏のネームバリューと作品の出来とのあまりのギャップの部分に好事家が目をつけ、作品は日の目に出ることに。そして、様々なメディアで紹介され、“カルト作”として騒がれた結果、こうして続編も世に出ることになったのである。前作が注目を集めたとは言え、あのような出来の作品であった場合、製作者は恥ずかしさのあまり萎縮してしまうのが普通である。しかし、水野氏は違っていた。開き直ったのか、はたまた天然なのか。そのいずれとも分からないが、観客の期待に応えて続編を製作した水野氏が真の映画人であることは、間違いないだろう。
前作はその出来はともかく、ある意味、映画として成功を納めたと言ってもいいだろう。そして、続編は前作の実績とさらなる期待からか、制作費も大幅にアップしたようだ。淡島千景、草笛光子、光本幸子、加茂さくら、二宮さよ子といったベテラン女優に加え、長門裕之を殺される役に配置する贅沢なキャスティング。また、作品の規模も、数車輌の列車のセットでこじんまりと撮影された前作と較べると大きくなり、今回はホテル(日光石亭)を貸切っての大々的なものとなった。脚本もプロに任せているので、スムーズかつ親切にストーリーが展開。ぱっと見では、「火サス」や「土ワイ」あたりの2時間ドラマとしてテレビ放映されたとしても、それほど違和感がないだろうと思われる完成度に達している。完成度が上がったことに関しては、“カルト作”を期待した観客にとって、前作ほどのインパクトが得られない残念なものとなった。しかし、水野氏を主役としたアイドル映画として観るならば、“シベ超”ファンも納得の作品となっている。
ソウル・バス風のグラフィカルなオープニング・タイトル、冒頭の十一分にも及ぶ長回し、『戦艦ポチョムキン』を真似た車椅子の階段落ちなど、前作に続いて古今の名作映画のパロディやオマージュが盛りだくさん。ミステリーの部分は、前作と同じく『オリエント急行殺人事件』、そして、『ナイル殺人事件』などをもとにしているようだ。また、時制の解体や物語の多層構造へのこだわりも変わらず、前作以上に複雑な内容となっている。もちろん、“シベ超”名物、どんでん返しに次ぐどんでん返しも用意されているので、見逃さないように。
芝居に関しては、前作のスターがかたせ梨乃の一人だったため、見せ場はないに等しかったが、今回はスター総出演。女医に扮した淡島千景がかっこよかったり、草笛光子と光本幸子のおばさん同士の喧嘩も笑えたりと、それぞれに見せ場が設けられている。また、謎解きのくだりでのベテラン勢の無駄な熱演は、“シベ超”を観てるのを忘れるくらいに迫力があったして、楽しい限りだ。問題の水野氏の芝居だが、佐伯大尉役がなぜか“竹田君”に交代しているため、西田“ぼんちゃん”和昭との掛け合いは見られないのは残念。しかし、水野氏のオチャメな面を強調した演出によって独特のアクが抜け、前作と較べると大分マイルドになっている。
本作の製作時、水野氏は「スターウォーズ」のルーカスを意識してか、「シベリア超特急はパート4まである」と宣言していた。しかし、『3』製作後、舞台版の『4」と『007』が上演され、さらに、『5』と『6』の完成をもって、シリーズは完結することになった(あと、『β ヴァージン島の決闘』なるものが存在するらしい)。いったい、あの『シベリア超特急』からここまで発展することを、誰が予想しえただろうか? 水野氏は、まさに映画の錬金術を成し遂げたのである。しかし、それも水野氏の経歴を見れば、当然と言えなくもない。氏は映画評論家である以前はFOXやユナイトの宣伝マンだった。氏は確かに映画製作に関しては素人ではあるが、プロの宣伝マンとしての感覚が確かなことは、“シベ超”シリーズの成功を見れば明らかだろう。氏は“シベ超”の本質をかなり早い段階から見抜いており、それに基づいた体を張ったプロモーションにより、錬金術を現実のものとしたのだ。氏が裸の王様であるかは分からない。しかし、結局のところ、「駄作だ」、「カルトだ」などと騒いでいた観客よりも、水野氏のほうが一枚も二枚もうわてだったわけなのである。
本作には西田和昭出演シーンをねじ込んだ『ゴールドバージョン 完全版』(「メーファンは老作家の妻になっていた」というオチ付き)他、『シネスコ・ウルトラ逆転版』、『ウルトラどんでん返しヴァージョン』などの複数のバージョンが存在している。



ストーリー
1936年の226事件では、武装蜂起した青年将校たちに多くの逮捕者を出した。山下奉文陸軍大将は青年将校たちに同情的であったが、彼らが処刑されたことについてはなぜか沈黙を守った――
現代の日本。一人の老作家がインタビューにやってきた二人の記者に、満州のホテルで起きた不思議な殺人事件の顛末を語りはじめた――満州のはずれマンチューリ。満州鉄道の駅に隣接した、かつてのロシア将校の別荘を改装した菊富士ホテルは、混乱の満州国とはまるで別世界であった。だが、ボーイとして働いていた後の老作家である少年は、これからここで殺人事件を目撃することになるのだった。
それは、第二次大戦前夜のある夜のことである。満州鉄道が線路の爆発で足止めにあり、乗り合わせていた乗客が復旧までの間ホテルに宿泊することになった。ホテルに次々とやってきたのは、社交界の歌姫・楊玲玲(ヤン・リンリン)、スペイン大使館の書記官・池波、事業家・田宮と愛人・片岡双葉、田宮に金で買われた中国少女・メーファン、置屋の女将・立花迪子、神宮寺伯爵夫人と息子の嫁・河津信江、ドイツ帰りのドクトル・家入歌子。そして、乗客の中には、ヨーロッパ視察の帰路にあったあの山下大将と部下の佐伯大尉の姿もあった。
部屋に案内されて早々、山下大将はメーファンに頼まれ、田宮と部屋を交換することに。一方、佐伯大尉は荷物の中に「二・二六」と書かれた脅迫じみたメモを発見していた。
ラウンジでの夕食時、佐伯大尉、ドクトルと同席していた山下大将のもとに田宮がやってきて、いきなりピストルを取り出して見せた。ピストル二千挺を山下大将の権力で裁いて欲しいという相談だった。
午後十一時頃、田宮の宿泊する306号室からメーファンの悲鳴が響いた。佐伯大尉が部屋に駆けつけると、メーファンが青い顔をして「旦那さまが…」と呟いた。ドクトルは寝室に入り、田宮の様子を確認。その結果、田宮はアヘンを吸した直後にメーファンの体を求めようとしたため、興奮のあまり心臓発作を起こしたと診断された。田宮はドクトルに鎮静剤を打たれ、騒動は収まった。
午前零時頃、山下大将は田宮に電話で部屋に呼び出された。先ほど山下大将が断わった商売の件でもう一度話をしたいのだという。ところが、306号室を訪ねた山下大将が見たものは、ベッドで胸から血を流して死んでいる田宮の姿だった。生憎、外は大嵐のため、警察はすぐに来れなかった。ホテルの従業員が警察を予備に行っている間。佐伯大尉とドクトルがボーイを助手につけ、ラウンジに呼び出した客一人ひとりに事情を尋ねることに。
まず、事件発生前後の全員の行動の確認から始まった。神宮寺夫人と信江は就寝していて、騒動を聞きつけて目覚ましたのだという。玲玲と双葉は部屋で一緒に酒を飲んでいて、その場にはメーファンもいたことをボーイが目撃していた。ドクトルと迪子は風呂に行っていて、そこでノゾキに遭っていたのだという。そもそも、事件前後には佐伯大尉とボーイが廊下に居たため、彼らの目を盗んで306号室に入ることは不可能だった。唯一、アリバイのとれていなかった池波も、スペイン時代に自殺を遂げた恋人イサベルのことで玲玲ともめていたことを告白。気分を変えて風呂に浸かっていた池波は、ドクトルたちにノゾキに間違えられのだという。
一人ひとりに事情を訊いた結果、誰にも田宮を殺害する動機はなかったが、神宮寺伯爵夫人と信江が山下大将を恨んでいることが発覚した。神宮寺伯爵夫人は、226事件にかかっていた息子の除名を山下大将に頼みつづけたが、聞き入れてもらえず、結局、息子は処刑されてしまったのだ。
全員にアリバイがあり、全員に動機がない。では、いったい誰が田宮を殺害したのか。山下大将の取材に来ていたアジア日報の記者・服部と丸山から、中国人ゲリラの存在の可能性に指摘された佐伯大尉は、山下大将を襲おうとしたゲリラが過って田宮を殺したのでは、と推理した。浴室の窓から侵入するならば雨に乗れていても怪しまれないと考えた佐伯大尉は、実際に部屋に侵入できるかどうか実験。ロープから手を滑らせ転落してしまった佐伯大尉だったが、偶然にも窓の下で縄ばしごを発見。佐伯大尉は山下大将の指示を仰ぐため、ドクトルや服部らと共に部屋を訪ねた。そして、彼らはクローゼットの中から例のピストルを発見した。
ピストルという決定的な証拠を手に入れたドクトルは、ラウンジに関係者全員を集めると、事件の真相を語りはじめた――誰にも田宮を殺す隙がなかったことは明らか。だが、一人だけ田宮を殺す機会を持っていた人物がこの中にいる。それは山下大将である。山下大将は戦争を利用して金設けをする田宮に憤り、彼の部屋に呼び出された時にナイフで刺し殺したのだ――ドクトルの推理を黙って聞く山下大将。信江は、山下大将に軍人として潔く自決することを迫った。山下大将は証拠のピストルを手に取り、それをこめかみに押し当てた。
だが、山下大将は「やめた」と言って銃を下ろし、彼の見解を語りはじめた――山下大将が田宮の部屋に入ったとき、田宮の体に付着した血液はぬれていたが、ベッドの血痕は既に渇いていた。それは、殺されてから時間が経っている証拠である。それから、ドクトルが打ったとされる鎮痛剤のアンプルも部屋にはなかった。鎮痛剤が使われなかったことは、あの時、田宮が既に死んでいたからだろう。それから、部屋に呼び出した電話の声の主が池波であったことにも、山下大将は気付いていた。だが、なぜ池波が田宮の商売の件を知っていたのか。それは、あの時同席していたドクトルが池波に伝えた以外に考えられない。山下大将は各人の行動を検討した結果、ドクトルを中心にして同じ目的のために各人が動いていたことに気付いた。あの時、田宮の死を確認したドクトルは、他の女性たちに山下に殺人の濡れ衣を着せることを提案。それを受けた玲玲は池波をイサベルの件で脅し、輸血用の血液を田宮の死体にかけるようし指示。縄梯子後を使い浴室から306号室に侵入した池波は、血液を付けた後、山下に電話。一方、その間に女性たちはお互いにアリバイ工作をしていた――
ドクトルは山下大将の推理が事実であることを認めた。池波はイサベルの死がフランコ政権による虐殺であることを告白。イサベルを追いつめられたことは、山下大将がフランコ政権に反対していたせいだとした。それから、山下大将は、玲玲がロシア革命で追われた日系人であることを暴露。ロシア人の父を捕えられた玲玲は、KGBからの山下大将の暗殺を命令されていたのだ。双葉は田宮との間の息子を226で亡くし、山下大将を恨んでいた。そして、ドクトルのユダヤ人の夫はアウシュビッツを送りになっていて、ゲシュタポから山下大将の帰朝の阻止を命令されていたのだ。つまり、ここにいる女性すべが共謀し、山下大将を罠にはめたというのが事件の真相だった。
最後に残された謎は、「誰が田宮を殺したのか」である。犯人はメーファンだった。彼女は、田宮に犯されそうになった時、咄嗟に側にあったナイフで相手の胸を突いてしまったのだ。メーファンは山下大将と向かい合うと、ピストルを手に取り引き金を引いた。山下大将はその場にばったりと倒れた。メーファンは自分に同情して庇ってくれたドクトルたちに恩を返したのだ。そして、メーファンは自害すべく、ピストルをこめかみに当てた。
だがその時、死んだはずの山下大将がむっくりと起き上がった。このような事態を想定し、佐伯大尉が実弾を空砲に入れ替えておいたのだ。ちょうど、警察がホテルに到着したが、山下大将は、田宮がアヘンで錯乱して自殺したのであり、殺人事件ではなかったと証言した。警察と記者を追い返した山下大将は、各人の負った悲劇について、自分力では致し方なかったことを謝まり、いずれ必ず償いをすることを約束した。事件が解決した時には夜が明け、鉄道の運行も復旧していた。
――すべてを語り終えた老作家は記者から凶器のナイフの行方について質問されたが、「忘れてしまった」と答えた。だが、実は、田宮に致命傷を与えたのは、メーファンに恋心を抱いていたボーイだった。ナイフも、ボーイが真犯人であることを悟った山下大将によって隠されていたのだった。



キャスト
淡島千景
Chikage Awashima
草笛光子
Mitsuko Kusabue
光本幸子
Sachiko Mitsumoto
寺島しのぶ
Shinobu Terajima
二宮さよ子
Sayoko Ninomiya
加茂さくら
Sakura Kamo
中村福助(九代目)
Fukusuke Nakamura
竹田高利(山口君と竹田君)
Takatoshi Takeda
小林すすむ
三田村賢二
北村有起哉
高松奈央
中村福太郎
田中真二
本間鉄矢
土屋大輔
桑原一隆
斎藤政哉
杉山友和
矢田三奈子(KSB)
多賀公人(KSB)
須藤温子(新人)
Atsuko Sudoh
尾上松也(新人)
Matsuya Onoe
ナレーター
油井昌由樹
安井昌二
Syoji Yasui
長門裕之
Hiroyuki Nagato
山下奉文陸軍大将
General Yamashita
水野晴郎

スタッフ
製作
Produced
岡田裕
水野晴郎
原作/脚色
Original Story / Arrange Screenplay
水野晴郎
プロデューサー
伊東直克
アソシエイトプロデューサー
細谷隆広
脚本
北里宇一郎
監督補
吉原勲
撮影
鈴木耕一(J.S.C.)
照明
矢部一男
美術監督
木村威夫
美術
丸山裕司
録音
湯脇房雄
編集
富田伸子
音楽
ジム・ダディ
Jim Daddy
スクリプター
奥平治美
助監督
荒川栄二
キャスティングプロデューサー
大畑信政
監督
Directed
マイク・ミズノ(水野晴郎)
Mike Mmizno

プロダクション
制作協力
アルゴ・ピクチャーズ
水野晴郎事務所