宇宙の辺境で思い出の中に生きる貴婦人。
新薬を過って飲みガス兵器となった男。
砲撃を行なうためだけにある街。
個性的な三話のオムニバスからなるアニメーション。
MEMORIES
別題 | メモリーズ |
製作年 | 1995
年
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製作国 | 日本 |
上映時間 | 113
分
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色彩 | カラー |
『AKIRA』の大友克洋が七年振りに製作したオリジナルアニメーションで、自作を原作とするる「彼女の想いで」、「最臭兵器」、「大砲の街」の三話オムニバス。スピルバーグが注目したということでも話題となった。
エピソード1「彼女の想いで」は、一見、緻密な設定に裏付けられたハードSF風だが、実は『雨月物語』のような古典的な怪談話という人を食ったような作品。「思い出」を題材にしたセンチメンタルな話で、余韻を残すラストも切ないが、その余韻を打ち砕くかのように、間髪入れず次のエピソードが始まる。宇宙空間から山梨への場面転換は、『2001年宇宙の旅』のジャンプショットを彷彿とさせ、この映画でもっともセンスオブワンダーを感じさせる場面だったりする。
エピソード2「最臭兵器」は、先のエピソードとはうって変わって、超バカバカしい作品。“人類が制御できない巨大な力”というのは、大友が繰り返し用いるモチーフだが、今回は、そこから巻き起こる騒動を徹底的に喜劇として描いていく。たった一人の平凡な男を倒すため、自衛隊や米軍が出動。戦闘機、戦車、ミサイル、と次第に攻撃がエスカレートしていく様は爆笑必死。欧米のアニメにはない日本のオリジナルのドタバタ表現の真骨頂を堪能できる快作だ。
エピソード3「大砲の街」は、大友が自ら監督を務めた意欲作。“象徴”としての大砲が価値の中心となっている世界が舞台で、そこに住むある一家の生活をこっけいに描いた、大友らしい皮肉を含んだ物語だが、特筆すべきはすべてをワンカットでつないだ映像。場面転換ですらカットを割らず、切れ間なく流れていくという映像が斬新だ。スチーム・パンクな世界観は、後の大作『スチームボーイ』への伏線となっている。
全体的に素晴らしくクオリティの高いアニメーションに仕上がっていて、大友が妥協の許さない職人であることを再確認させられる。と同時に、良くも悪くも、宮崎や押井とは違う趣味人であること知らしめた問題作でもある。
EPISODE 1 MAGNETIC ROSE 彼女の想いで
2092年。四人の乗組員を乗せて宇宙空間を行く回収船コロナは、障害物排除の作業の帰りに、宇宙の墓場と呼ばれるサルガッソー宙域から緊急信号を受信した。ベテランのハインツと女たらしのミゲルは、船長のイワノフとオペレーターの青島を残し、救助活動に向かった。信号の発進源は漂流物が寄せ集まって出来た巨大な宇宙船だった。宇宙船内に潜入したハインツとミゲルは、目の前に広がった意外な光景を目を丸くした。そこはシャンデリアがきらめく大ホールで、窓の外には美しい庭が広がっていたのだ。
壁の肖像画に描かれた上流階級と見られる女性がこの邸(宇宙船)の主らしい。だが、邸の中に存在する調度や装飾はすべて見せかけで、ロボットが用意した食事も、クローゼットルームの衣装も作り物だった。青島の調査により、主の女性エヴァ・フリーデルは、前世紀で天才と言われたソプラノ歌手であることが分かった。名声をほしいままにしていた彼女だったが、声を潰した上、婚約者のテノール歌手カルロが何者かに殺害されるという不幸にみまわれた。その後、彼女はこの宇宙の辺境に引きこもり、過去の栄光に浸っていたようだ。
ハインツとミゲルは、邸の中で移動を続ける信号を追いかけ、二手に分かれた。ミゲルは邸のはずれで朽ち果てたピアノを発見。鍵盤を叩いたミゲルの前にエヴァが現れた。一方のハインツは、劇場の舞台の上に迷い込んでいた。舞台の上にはエヴァもいて、振り向いた彼女にナイフでハインツの腹を刺した。気がつくと、彼は妻アンナと十歳になる娘エミリィと朝食のテーブルを囲んでいた。それが幻であることに気付き我に返ったハインツは、交信の途絶えたミゲルを探しに向かった。
ミゲルは汚水の中で一人戯れているところを発見されるが、彼にハインツの声は届かず、エヴァの思い出の中に連れて行かれてしまった。カルロを殺したのが、彼の裏切りを恐れたエヴァの仕業であったことに、ハインツは気付いた。姿を現したエヴァは、思い出の中に生きることがどういうことか分からせようとして、屋根から転落死していたエミリィをハインツの前に出現させた。思わずエミリィを抱きしめたハインツだったが、娘が死んだ現実と向かい合う決意し、エヴァに向かって発砲した。エヴァは銃弾に倒れるが、その正体はロボットだった。コンピュータが亡き主の思い出を宇宙船の中に再現していたのだ。
宇宙船の発する強力な磁場にコロナを引き寄せられ、これ以上、持ちこたえられなくなったイワノフは、ハインツたちを見捨てることを決断。コロナはエネルギー砲を発射し、宇宙船を吹き飛ばした。ミゲルはカルロの身代わりとしエヴァの思い出に永遠にとらわれることになった。そして、ハインツは、宇宙船の残骸とともに宇宙を漂っていた。
EPISODE 2 STINK BOMB 最臭兵器
山梨の甲府にある西橋製薬の研究所。風邪を引いて出勤した研究員の田中信男は、みかねた同僚から解熱剤のサンプルあることを教えられた。赤いケースに青いカプセル。そう聞いて、所長室にサンプルを探しにいった信男は、デスクの上に放り出されていた青いケースの中の赤いカプセルを間違えて飲んでしまった。サンプルに触れられたことに気付いた所長の大前田は、血相を変えて研究室に飛び込み、その場にいた所員に誰の仕業か問いただした。あのサンプルは政府からの依頼で極秘に開発した特殊な新薬だというのだ。
体調が悪くなって応接室で横になっていた信男は、すっかり熟睡してしまい、気付いたら翌朝になっていた。早朝の所内をひとめぐりした信男は、自分をのぞく所員のすべてが昨日の状態のまま意識不明になっているのを見て仰天した。事故があったと思い、所長室に行くと、大前田が電源の前に手を伸ばしたまま倒れていた。倒れる前にアラームを切断したようだ。電源を入れると所内にアラームが鳴り響き、本社と緊急回線でつながった。所内の様子をモニターで確認した本社の韮崎館長は、事態を察すると、信男に新薬の資料とサンプルを東京にある本社まで持ってくるよう命じた。
資料とサンプルを鞄に詰め、自転車で出発した信男だったが、辺りのようすがおかしいことに気付いた。気絶した小動物があちこちに転がり、真冬なのに桜とひまわりが同時に咲いているのだ。信男はそれが自分の体から発する臭気が引き起こした異常なのだとは思いもしなかった。
西橋製薬から連絡を受けた政府は、直ちに東京に対策本部を開設。本部長はその時はじめて、西橋の韮崎と蒲田専務の口から新薬の存在を知った。新薬は、もとはPKO活動時の対生物兵器の目的で開発されたガス兵器だったのだが、開発の過程で予想以上の効果をあげていたのだ。ガスの範囲が研究所より移動しているとの報告を受けた韮崎と蒲田は、信男が研究所の唯一の生き残りであるという事実に気付き、真っ青に。この災害の張本人がこちらに向かっているのだ。
その頃、中央自動車道を東へ向かっていた信男は、笹子トンネルを通過していた。臭気の発生源が信男であることが特定されたが、ガスが発汗と共に合成醸造されるため、彼を刺激するようなことはできない。東京侵入を阻止するには本人を殺すしかないのだ。政府は自衛隊の戦闘機、戦闘ヘリ、戦車などを総出動させ、信男の抹殺に乗り出した。信男は、ライフルの弾が飛んでこようと、ミサイルが飛んでこようと、爆弾が落ちてこようと、自分が狙われているとは気づいていなかった。だだ、目の前の無数の戦闘機やヘリを見て、なんだか大変なことになってしまったと考えていた。
恐るべき強運で攻撃をかいくぐりながら、バイクで一路東を目指す信男。一方の自衛隊は、信男の発する臭気で兵器の集積回路をかく乱され、関係ない民家を破壊したり、自滅したりしたりしてた。政府の緊急事態の発令を受けた都民たちは、東京から脱出しようと駅や空港に殺到。首都は大混乱に陥った。やむを得ず政府は国連に救援を要請した。これからの更なる混乱を思って沈鬱になっていた本部長だったが、その横では、アメリカ軍の将校が独自の作戦を実践しようとしていた。NASAから取り寄せた新型の宇宙服でガスを侵入を防ぎ、信男を生け捕りにしようというのだ。
その頃、ボロボロになった信男は、小仏トンネルに差し掛かっていた。トンネルを爆破して入り口を塞いだ自衛隊は、強力な冷気を流し込んで、ガスの流出を防いだ。すかさず、宇宙服を着込んだ特殊部隊が、信男捕獲用の特殊なカプセルを持って、トンネルの中へ踏み込んでいった。現場からの通信がしばらく途絶え、対策本部に緊張が走った。回復した通信がはじめに映し出したのは、カプセルを囲んだ宇宙服たちの姿だった。対策本部に歓声が沸きあがった。
本部長や韮崎たちは、対策本部に戻ってきた宇宙服の兵士の活躍を称えようとした。だが、宇宙服は、なぜか信男の鞄を手にしていて、それを韮崎に渡した。ガスで充満したヘルメットの奥に信男の顔を見た一堂は絶叫した。そんな周囲の反応におかまいなく、命令を果たして満足げな信男は、おもむろに宇宙服のイジェクトボタンを押し、それと同時にガスが噴出したのだった。
EPISODE 3 CANNON FODDER 大砲の街
少年の一日は廊下に張られた英雄のポスターに敬礼することから始まる。彼の暮らす街は無数の大砲が海に向けて設置された城砦都市だった。少年の父親は17番砲台の装填手として働いていた。砲撃は儀式のように正確な手順で進められ、最後に厳かに登場する砲撃手がトリガーを引く。これが各砲台で一日に何度も繰り返されるのである。少年の通う学校の授業の内容も砲撃に関することで、その日は三角関数の勉強だった。工場で働く母親の仕事も砲弾の製造である。人々の生活は大砲を中心に回っているのである。
昼休みを挟んだ午後の砲撃の時、父親は確認のミスを怠り、砲弾を落下させてしまった。監督に叱責された父親は防音マスクをどこかへなくしてしまい、そのまま発射を待つこと破目に。砲撃手がトリガーを引いた瞬間、父親はたまらず耳をふさいだ。
一日が終り、自宅に帰ってきた少年の一家。テレビではいつものように砲撃の成果が報告されていた。少年はどこと戦争をしているのかが気なっていたが、父親は「大人になれば分かる」と答えるだけだった。少年の一日は英雄のポスターに敬礼することで終わる。英雄に向かいながら少年は、将来、父親のような装填手ではなく、砲撃手になることを夢見るのだった。
EPISODE 1 MAGNETIC ROSE 彼女の想いで
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ハインツ
| 磯部勉
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ミゲル
| 山寺宏一
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エヴァ
| 高島雅羅
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イワノフ
| 飯塚昭三
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青島
| 千葉繁
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エミリィ
| 長谷川亜美
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アンナ
| 沢海陽子
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ロボット
| 柊美冬
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A氏
| 平野正人
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声
| 坂口哲夫
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声
| 大場真人
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原作
| 大友克洋
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監督
| 森本晃司
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脚本/設定
| 今敏
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キャラクターデザイン/作画監督
| 井上俊之
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音楽
| 菅野よう子
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プロデューサー
| 田中栄子
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メカニック設定
| 渡部隆
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動画チェック
| 村田充範
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動画チェック補
| 佐藤伸子
梶谷睦子
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色彩設計
| 小針裕子
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仕上検査
| 中内照美
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仕上管理
| 佐々木尚子
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仕上
| エムアイ
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仕上検査補
| 片山由里子
久下真由美
海鉾重信
佐々木雅人
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仕上検査補協力
| 小林初美
水巻みゆき
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マシントレース
| 奥井恵美子
原裕子
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仕上進行
| 三上和廣
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ハーモニー
| 高屋法子
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特殊効果
| 玉井節子
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撮影監督
| 枝光弘明
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撮影
| スタジオぎゃろっぷ
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IMAGICA CIS
| 金子俊夫
鈴木等
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C・G・I
| 安藤裕章
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C・G・I協力
| 長尾健治
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小道具設定
| 磯光雄
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音響効果
| 倉橋静夫(サウンドボックス)
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制作担当
| 高橋靖
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制作デスク
| 首藤由美子
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制作進行
| 沢崎信孝
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アニメーション制作
| スタジオ4℃
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EPISODE 2 STINK BOMB 最臭兵器
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田中信男
| 堀秀行
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韮崎
| 羽佐間道夫
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本部長
| 大塚周夫
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鎌田
| 阪脩
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大前田
| 緒方賢一
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米軍将校
| 大塚明夫
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ばっちゃん
| 京田尚子
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医者
| 石森達幸
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咲子
| 藤井佳代子
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美樹
| 神代知衣
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同僚
| 曽我部和恭
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隊長
| 島田敏
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アナウンサー
| 小野英昭
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幹部
| 田中亮一
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幹部
| 岸野幸正
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通信兵
| 佐藤浩之
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通信兵
| 大滝進
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パイロット
| 巻島直樹
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信男の弟
| 岩永哲哉
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看護婦
| 中村尚子
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レポーター
| 新田三士郎
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米軍兵士
| 森ステファン
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原作/脚本/キャラクター原案
| 大友克洋
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監督
| 岡本天斎
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キャラクターデザイン/作画監督
| 川崎博嗣
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メカニックデザイン/メカニック作画監督
| 仲盛文
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美術監督
| 串田達也
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音楽
| 三宅純
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監修
| 川尻善昭
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プロデューサー
| 丸山正雄
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作画監督補
| 藤田しげる
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作画監督補
| 三原三千雄
簀輪豊
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色彩設計
| 鈴木たかこ
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色指定
| 秋山久美
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仕上協力
| A・I・C
マンボウ
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仕上検査協力
| キャッツ
ジュニオ
トランスアーツ
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美術設定
| 加藤浩
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美術
| スタジオ美峰
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特殊効果
| 谷藤薫児
前川孝
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撮影監督
| 山口仁
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撮影
| マッドハウス
斎藤敦朗
藤高恒夫
崎谷祐樹
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撮影協力
| アニメーションスタッフルーム
松崎泰三
木下規正
トムス・フォト
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音響効果
| 柴崎憲治(サウンドボックス)
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助監督
| 西浦哲
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制作担当
| 高江哲
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制作管理
| 小野達矢
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制作デスク
| 小林弘靖
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制作進行
| 吉岡仙朋
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アニメーション制作
| マッドハウス
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EPISODE 3 CANNON FODDER 大砲の街
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少年
| 林勇
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父親
| キートン山田
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母親
| 山本圭子
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先生
| 仲木隆司
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指揮官
| 中村秀利
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給弾長
| 福田信昭
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旋回手
| 江川央生
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俯仰手
| 佐藤正治
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天気予報
| さとうあい
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駅アナウンス
| 長嶝高士
|
駅アナウンス
| 石川ひろあき
|
駅アナウンス
| 喜多川拓郎
|
兵士
| 田中和実
|
兵士
| 園部啓一
|
兵士
| 鈴木勝美
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男
| 塩屋浩三
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男
| 河合義雄
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女
| 峰あつ子
|
女
| 大友洋子
|
女
| 巴菁子
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監督/原作/脚本/キャラクター原案/美術
| 大友克洋
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キャラクターデザイン/作画監督
| 小原秀一
|
音楽
| 長嶌寛幸
|
技術設計
| 片渕須直
|
撮影監督
| 枝光弘明
|
C・G・I
| 安藤裕章
|
プロデューサー
| 田中栄子
|
動画チェック
| 村田充範
|
動画チェック補
| 宮崎康子
梶谷睦子
|
色彩設計
| 中内照美
|
仕上検査
| 片山由里子
小針裕子
海鉾重信
|
仕上管理
| 佐々木尚子
|
仕上
| エムアイ
|
仕上検査補協力
| 小林初美
水巻みゆき
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マシントレース
| 奥井恵美子
原裕子
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仕上進行
| 三上和廣
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特殊仕上
| 山本公
梶谷睦子
村田康人
芳中順子
片山雄一
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特殊効果
| 玉井節子
村上麻美
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撮影
| スタジオぎゃろっぷ
西山政良
量知良
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撮影協力
| スタジオジブリ
奥井敦
藪田順二
高橋わたる
古城環
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SEデザイン
| 新井秀徳(フィズサウンド)
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オプチカル
| 金子鉄男
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タイミング
| 山岡秀雄
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IMAGICA・SHOP/フィルムレコーダー
| 河野哲恵
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制作担当
| 高橋靖
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制作デスク
| 首藤由美子
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制作進行
| 沢崎信孝
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アニメーション制作
| スタジオ4℃
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スタッフ
製作
| 山科誠
渡辺繁
八木ヶ谷昭次
宮原照夫
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企画
| 大友克洋
鵜之沢伸
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プロデューサー
| 杉田敦
鮫島文雄
水尾芳正
田中栄子
井上博明
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宣伝プロデューサー
| 村井俊彦
柘植靖司
福本博之
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音響監督
| 藤野貞義
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編集
| 瀬山武司
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製作総指揮/総監督
| 大友克洋
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音楽プロデューサー
| 佐々木史朗
伊藤将生
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音楽制作/オリジナルサウンドトラック
| ビクターエンタテインメント
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タイトルミュージック OP「PROLOGUE」/ED「IN YER MEMORY」
| 石野卓球(by courtesy of Ki/oon Sony Records)
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整音
| 佐藤千明
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制作
| マッシュルーム
オニロ
よんどしい
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提供
PRESENTS
| 大友克洋
KATSUHIRO OHTOMO
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配給
| 松竹株式会社
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製作
| バンダイビュジュアル
松竹株式会社
株式会社講談社
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