ファシスト連合の企みによりボルチモアで原爆が爆発!
アメリカとロシアの間の核戦争の危機を描くポリティカル・サスペンス・アクション。
トム・クランシー『恐怖の総和』を原作とする“ジャック・ライアン”シリーズ第4弾。
トータル・フィアーズ
原題 | THE SUM OF ALL FEARS |
製作年 | 2002
年
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製作国 | アメリカ/ドイツ |
上映時間 | 124
分
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色彩 | カラー |
『レッドオクトーバーを追え!』、『パトリオット・ゲーム』、『今そこにある危機』に続くシリーズ第4弾。主演は、前二作のハリソン・フォードに代わり、人気の若手ベン・アフレックが務める。冷戦集結と共に役目が終り、持て余されるようになった核をめぐったサスペンス映画が近年、数多く作られたが、ついに真打として、テクノサスペンスの巨匠クランシーが登場。これまでの“ジャック・ライアン”シリーズから飛躍的にスケールアップした内容で、核戦争の危機をシミュレートする。同時多発テロ以降、作りにくくなってしまった戦争がらみのアクション大作としては最後の作品になるかもしれない。
映画版では、家族持ちであったライアンを独身に変更したことをはじめ、ハイライトシーン以外は原作より大幅にストーリーが変更されている。ノイス=フォード版とはまったく雰囲気が違い、“ジャック・ライアン”シリーズとは切り離した独立の作品として捉えたほうが良いようだ。家族のために頑張るスパイは期待出来きないが、その代わり、悪夢としか言いようのない大胆なストーリーは見応え十分。テロが事件のきっかけにはなっているが、連絡ミスや誤解の積み重ねから世界の破滅へ突き進んでいくという展開は、これまでの“終局もの”にないリアリティがあり、観ていてめまいを催しそうなほどだ。
主人公ライアンは、世界を揺るがす大事件にも振り回されながも、実直さと誠実さを貫き通す若き分析官として描かれているが、その立場はというと、『レッドオクトーバーを追え!』に近く、事件の証言者としての役割が強くなっている。そんな主役よりも存在感があるのが、モーガン・フリーマン、ジェイムズ・クロムウェル、シアラン・ハインズらの扮するエグゼクティブたちである。機知のある発言とスマートな容姿がとにかくかっこよく、アメリカの考える模範的人間として描かれているが、そんな彼らが次第に判断力を失っていくところが怖ろしい。核のボタンを弄ぶ彼らこそが、この物語の実質的な主役といってもいいだろう。
中東戦争当時、イスラエルの戦闘機がシリア上空で撃墜され、搭載されていた核が紛失した。それから29年後のアメリカ合衆国。冷戦が終わった現在でも、核の脅威は存在し、ファウラー大統領ら国防に関わる幹部たちは、弾道核ミサイル攻撃に備えた演習を繰り返していた。チェチェン問題でロシアの緊張が高まっていた頃、オーストラリアのウィーンでは、ネオナチの実業家リチャード・ドレスラーが、冷戦集結がヨーロッパ勢に危機をもたらすという持論を展開していた。一方、ロシアでは、アメリカが核解体施設への視察を予定していた直前に、ゾルキン大統領が急死した。
ロシアの新大統領には、アレクサンドル・ネメロフが就いたが、彼がロシア帝国再建を目論んでいるという情報もあり、アメリカ政府は警戒した。この問題に関して助言が求められたCIAの分析官ジャック・ライアンは、ホワイトハウスの会議の席で、ネメロフが急進派であることを否定した。ネメロフを熟知するライアンは、そのまま、核解体の視察に向かう長官のウィリアム・キャボットに同行することになった。ロシアへ向かう機内で、ボルチモア記念病院に務める恋人キャシー・マラーに電話したライアンは、ここではじめて自分がCIAであることを明かした。だが、キャシーは、冗談と思って電話を切ってしまった。
ロシア連邦政府で会見したネメロフは、まずはじめに、国内にチェチェン問題を利用しようとする反乱分子がいることを告げると、アメリカがこの問題な口を挟むことを牽制した。ライアンたちが案内されたアルザマズの解体施設では、スパスキー博士ら三人の科学者が行方不明になっていた。その三人は、核爆弾を作るのに必要不可欠な技術の持ち主であったが、そのことは、事前にキャボットがロシアのスパイ“スピネーカー”から情報を得ていた。キャボットは、“最悪の惨劇を避けるため、裏口は常にあけておくものだ”と、彼の情報網に驚くライアンに言った。一方その頃、シリアのダマスカスの砂漠で、中東戦争で紛失していた核が砂漠の中から発見されていた。発掘を見守っていたCIAのオルソンは、核を買い取ると、それをイスラエルのハイファから出航する貨物船に乗せた。
アメリカへ帰ったライアンは、キャボットの計らいにより、キャシーへの先日の埋め合わせをするため、彼女と一緒に大統領主催の晩餐会へ出席することになった。本来、出席の予定だったCIA工作員のジョン・クラークは、キャボットの命令でロシアへ飛んだため、招待状が余ったのだった。晩餐会の最中、ロシアがチェチェンの首都グロズヌイに対し、化学兵器による攻撃を仕掛けたという情報が飛び込んできた。ファウラーは緊急の閣議を開き、ライアンも同席することになった。ファウラーたち幹部は、ネメロフが攻撃を指揮したと決めてかかり、一時的に国として承認したチェチェンへ平和維持軍を送り込むという案を練られた。そんな中、ただ一人、ライアンだけはネメロフを信じていたが、すぐに、チェチェン攻撃を認めるネメロフの声明が発表された。テレビで声明を見て茫然としたライアンだったが、彼の読みは正しかった。実際、ネメロフは攻撃の指揮などしておらず、何者かが彼の声明を捏造したのだった。
ドレスラーの悪魔の計画は着実に進行していた。ヨーロッパの左翼勢力、ネオナチ、そして、白人至上主義が一つに結託し、今、一つの目的に向かって進んでいた。彼らの狙いはアメリカとロシアに戦争を起こさせることで、両大国が共倒れした後にファシズムを再建することが最終の目的だった。ドレスラーの計画では、メリーランドのボルチモアが核戦争の引き金になる予定だった。
ロシアのアルザマズに向かったクラークは、入院中のスパスキー博士の母から息子の居場所を聞き出し、ウクライナへ飛んだ。ホテルでキャシーと二人だけの時を楽しもうとしていたライアンだったが、電話でキャボットに呼び出され、極秘の任務を与えられた。ウクライナのクレメンチェク人工湖に向かったライアンは、クラークと接触し、スパスキーたちが秘密裏に作業を行なっている施設の情報の入ったディスクを渡した。だが、クラークが湖畔の施設に入ったときには、既に科学者たちは殺害されており、ハイファから送られた荷物も持ち去られていた。
アメリカに戻ったライアンは、ウクライナから輸出された荷物の追跡をCIAの同僚に依頼した。追跡の結果、例の荷物はアメリカのボルチモアに持ち込まれていたことが分かった。その時、ファウラーとキャボットは、ボルチモアのスタジアムでスーパーボウルの試合を観戦中だった。スタジアムの設置されたタバコの自販機に原爆が仕掛けられているとも知らずに。ライアンは、キャボットに電話をかけ、ハーフタイム中にようやくつながった。近くに爆弾があることを知らされたキャボットは、すぐさまファウラーをスタジアムの外に連れ出すが、彼らが遠くへ避難する間もなく、原爆が炸裂してしまった。爆風は、ファウラーの車やボルチモア記念病院、そして、ライアンの乗っていたヘリを吹き飛ばした。
墜落したヘリからどうにか這い出したライアンは、スタジアムの方角に立ち上る巨大なきのこ雲を見て愕然とした。一瞬にして、ボルチモアの数十万の市民の命が失われたのだ。幸い軽症で済んだファウラーは、緊急事指揮機NEACAPに乗りこみ、報復活動の指揮をとった。空前の悲劇のために怒りと恐怖にとらわれたファウラーは、爆弾がロシアの仕業だと信じて疑っていなかった。一方、ボルチモアでの惨劇に遅れること、ロシアのモスクワでも原爆騒ぎが起こり、急進派の間でアメリカへの報復の声が高まっていた。両国の混乱は増し、ネメロフの命令がないにも関わらずロシアからミサイルが発射され、アメリカの空母が破壊された。今や戦争状態に突入し、前面核戦争への発展は時間の問題だった。
CIAが被爆した物質を分析した結果、原爆に使われた核は68年のアメリカ産のプルトニウムであることが分かり、爆弾を仕掛けたのがロシアではないことが証明された。ライアンは、行方不明になっていたキャボットを病院で発見するが、“スピネーカー”という言葉を最後に死亡した。さっそく、ライアンはスピネーカーとメールで連絡を取り合い、プルトニウムをイスラエルに渡したのがCIAであるという情報を得た。オルソンの口座からドレスラーという黒幕の存在にたどり着いたライアンは、核戦争を止める最後の望みをかけ、国防総省に急いだ。その頃、国防総省では、ファウラーがロシアへの核攻撃の決断を下し、ステルス爆撃機を向かわせた。アメリカの最終攻撃を察知したメネロフも、対抗して核攻撃の準備を開始した。
亡きキャボットのIDで国防総省内に入ったライアンは、ホットラインを通じでメネロフの説得にあたった。その時、ファウラーも、ライアンの行動に気付き、彼の語る事件の経緯を聞いていた。ロシア側は、ライアンが時間稼ぎをしていると考え、停戦に応じる気配を見せなかった。時間切れに焦ったライアンが、「これは恐怖の総和が招いたことだ」と叫んだ瞬間、ホットラインが切断された。すべてが終わったかに思われた。だが、間もなくして、メネロフが攻撃を命令を解除したという情報が入ってきた。それを待ち受けていたかのように、ファウラーも攻撃の中止を命令した。
その後、アメリカとロシアの間で正式に停戦調停が結ばれた。その歴史の一場面の裏では、クラークたち工作員により、オルソンやドレスラーといった計画の首謀者の暗殺が行なわれた。調停指揮の後、ライアンとキャシーの前に、ロシアの政治顧問グルシュコフが現れた。自分がスピネーカーであることを仄めかせたグルシュコフは、まだ誰も知らないはずの婚約祝いをキャシーに手渡したのだった。
キャスト
ジャック・ライアン
| ベン・アフレック
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ウィリアム・キャボット長官
| モーガン・フリーマン
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ロバート・ファウラー大統領
| ジェイムズ・クロムウェル
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ジョン・クラーク
| リーヴ・シュレイバー
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レヴェル国家安全保障補佐官
| ブルース・マッギル
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ラセッター将軍
| ジョン・ビーズレイ
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デイヴィッド・ベッカー国防長官
| フィリップ・ベイカー・ホール
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ディロン
| ジェイミー・ハロルド
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ドレッサー
| アラン・ベイツ
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キャシー・ミュラー医師
| ブリジット・モイナハン
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ジェサプ評議員
| ジョセフ・ソマー
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ネメロフ大統領
| シアラン・ハインズ
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アナトリ・グルシュコフ
| マイケル・バーン
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シドニー・オーウェンズ州務長官
| ロン・リフキン
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ダビニン将軍
| エフゲニー・ラザレフ
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スタッフ
監督
| フィル・アルデン・ロビンソン
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製作
| メイス・ニューフェルド
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製作総指揮
| トム・クランシー
ストラットン・レオポルド
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原作
| トム・クランシー「恐怖の総和」
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脚本
| ポール・アタナシオ
ダニエル・パイン
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撮影
| ジョン・リンドリー,A.S.C.
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音楽
| ジェリー・ゴールドスミス
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美術
| ジャニーヌ・クラウディア・オップウォール
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編集
| ニール・トラヴィス
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衣装デザイン
| マリー=シルヴィー・デヴュー
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